基金の活動

「第21回建設業経営者研修」~生き残るための建設業経営~ を開催

 

 本財団は2月17日(金)、「第21回建設業経営者研修」(於:浜離宮建設プラザ:東京都中央区)を開催しました。今回は「生き残るための建設業経営」をテーマに、激動の時代を生き抜くための経営戦略や人材育成について、さまざまな分野から3名の講師を迎え講演を行いました。講演後のパネルディスカッションでは、現在の建設業の課題解決に向けた具体的な方策を話し合いました。講演内容について、概略を紹介します。

 
 講演1 「建設産業の動向と勝ち残る企業の条件 ~建設業界の変革期にトップは何を決断すべきか~」

地域経済研究所  理事長 阿座上 洋吉 氏  
 

 阿座上氏はまず、「今後の動向を見れば在来型の原価認識に革命が起きることは間違いない」とし、一般的な在来型の原価認識とは設計積算段階の品質原価、そして施工段階での品質原価を確認することだと述べ、工事には美味しい工事(利益工事)と、不味い工事(赤字工事)があり、不味い工事には業者が集まらないことが証明されている。工事利益とは原価管理ではなく工事の美味しさで決まるという見方が広まると指摘。「不味い工事の主たる要因は複雑な作業工程という"仕組みの問題"で、これを解決するのが施工マネジメントであり、i-Con(i-Construction)は原価革命の糸口になる」と述べました。
 また、建設原価には"堅さ"の違いがあり、元請けが発注者と契約時に固めてしまう管理不可能原価と、施工段階で歩掛や資源数など変動要素の柔らかい管理可能原価があり、その中でも実態の掴めない施工中の浮遊原価について、例えば、故障した重機1台を放置していたことで、現場の稼働率は80%に低下し工期も延びる。現場は日々変わっていく。こういった浮遊原価をしっかりと見張り、何か起きたらすぐに察知してその影響を的確に把握することが重要だと強調しました。複数の現場を犠牲にしてでも全体として大きな効果が出るよう浮遊原価の悪影響を最小限に抑えることが利益の出る原価管理であり、「これらのi-Con時代には一匹狼的な現場代理人ではなく、総合連携型の現場代理人が求められる。一人の能力ではなく、複数の現場代理人とそれを束ねる経営者とがチームを組む体制をつくることが重要だ」と強く訴えました。

 
 講演2 「倒産の危機からお金の管理と企業の見える化で事業再生、そして事業承継へ」

株式会社小坂田建設  代表取締役 小坂田 英明 氏  
 

 岡山市北区建部町にある(株)小坂田建設は、社員12名の会社です。主に地域に密着した土木工事を請負い、年間で2億円ほどの売上高があります。創業62年を誇り、直近7期連続で黒字を達成している同社ですが、平成20 年には倒産の危機を迎えていました。
 3代目社長である小坂田氏は、「当時は、銀行借入を中心とした借金は1億2300万円にまで膨らんでおり、いつ倒産してもおかしくない状況。どうせ潰れるなら徹底的に経営をやってみよう。」と一念発起したそうです。
 まず取り組んだのは、きちんと実行予算を立て、これに対する日々の原価管理を習慣化することでした。実行予算を立てるときは、現場の作業員もイメージしやすいよう、単位の表示を㎥からmに変えるという工夫をし、工事日報には、どんな作業も全て記入することとしました。日々の原価管理が社内で習慣化されたことにより、工事の進捗状況や損益が日々確認できるため、早い段階で改善指示が出せ、利益率の向上につながっています。また、社員も日々の仕事の損益が分かるので、仕事への意識も変わっていったそうです。
 さらに、地域・金融機関・社員に対し、会社の「見える化」にも取り組みました。高齢化や過疎化が進む中、地域住民の様々なニーズに対応できる会社に事業転換を図っていこうと考えた際、そもそも地域の人々にとって、小坂田建設がどんな会社か「見えない」と仕事の依頼も来ません。チラシの作成やイベントの開催を通じて、会社を積極的にPRし、年間で230件ほど地域住民からの仕事の依頼を引き受けるようになりました。金融機関や社員に対しても、会社の経営状態をきちんと数値で「見える化」して説明できるため、信頼関係が強まり、会社の変革、事業再生へとつながっていきました。
 事業承継に悩む建設業経営者が多い中、自らの経験として、事業承継する時期の明確化、財務管理や決算書の開示などを具体的に例示し、最後に講演のポイントとして、「お金の管理無くして事業継続なし」、「見えない企業に仕事も人も来ない」、「事業承継には専門家を活用」とまとめられました。地域建設業にとって具体的で学ぶところが非常に多い講演となりました。

 
 講演3 「あきらめない採用・育成そして企業発展!
     建設産業が取り組むべき人材育成の経営戦略"ワシがやらねばだれがやる"」

株式会社KMユナイテッド  社長 
関西学院大学  客員研究員 <グローバル・アントレプレナーシップ教育研究センター>
竹延 幸雄 氏  
 

「人材の採用ついては非常に厳しい状況が続いている中、建設業は最も人材が枯渇している。人の採用に関して建設業界はトヨタ自動車と戦っていかなければならない。全く未経験の人に会社に興味を持ってもらえるか?」冒頭に講演者の竹延氏は問いかけました。
 創業66年超える(株)竹延では週休二日、全員正社員、退職金の積立など就業規則や人事制度を変えるのは難しい。「新たな枠組みで新たな人財を発掘」するため、新会社(株)KMユナイテッドを立ち上げた。
 着手したのは育成方法、「10年後ではなく3年後に1人前」という育成方針を進めるため、塗装の仕事内容を分析し、どうしても専門職種でなければならない作業は全体の40〜60%であり、それ以外の「特化した仕事に集中」させ、高齢者のベテラン職人が「教えて教えて育て上げる」ことにより、短期間に育て、自信をつけさせる。3年目の女性社員が京都の一流ホテルの塗装を担当するといった成果や定着率の向上にも繋がっているとのことです。
 また、女性が働きやすい環境整備として、資材の軽量化や新たな工具を使用。女性職人だけでなくお客様にも体に優しい塗料を理解してもらうための専門のショップを運営。現場が早い建設業の特性に対応するため朝7時から預けられる託児所を完備し、自社だけでなく他社にも利用を展開する。塗装会社と連携し特殊塗装材の教育や富士教育訓練センターを活用し他職種の教育を受け、業務範囲を広げている。一つの会社でできないことは他の会社とも協力し、皆でやれるようにするといった他者と連携した取組も視野に入れているとのことです。
 雇用の問題で一番重要なのは「育てあげる」ことや「働きやすい環境の整備」。業界に無い雇用改革をやる。一つ一つやっていくと大変だと思うのではなく「一つ一つをやっていくと他に無い会社になる」と自社の取組を例に人材育成の重要性を強く訴えた講演となりました。

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