3月14~18日、「国連防災世界会議」が仙台市で開催され、国際的な防災戦略について議論が行われました。この会議に合わせて仙台市周辺地域では、一般の方が気軽に参加できる防災・減災に関するシンポジウムなどが開催されました。地元建設業団体からは、(一社)宮城県建設業協会と(一社)仙台建設業協会が参加、一般参加者へ業界のイメージアップを図る目的で、フォーラムの開催や展示ブースの出展を行いました。そのうち宮城県建設業協会の取り組みをご紹介します。
第3回国連防災世界会議 パブリック・フォーラム
未来に向けて ~建設業が果たす役割・街づくりと中学生記者が考える防災~
主催:(一社)宮城県建設業協会
「地域建設業が防災に果たす役割を探る〜地域密着『町医者』としての建設業〜」(3月16日:東京エレクトロンホール宮城)では有識者、地元建設業者などパネリスト4名が、東日本大震災発生時の復旧作業などについて振り返るとともに、今後の復興・減災への取り組みについて語りました。
被災地で甚大な犠牲を出した地域の一つが南三陸町。冒頭、当地の㈱阿部伊組代表取締役・阿部隆氏は震災を振り返って「水産加工物の分別作業と遺体の仮埋葬が最も過酷だった。水産加工物は、ひどい腐敗臭と格闘しながら、パックと中身を手作業で分別した。遺体の仮埋葬は、本来我々の仕事ではなく行政からの依頼。作業者自身も被災者として傷つき、そうした状況下での作業は大変過酷で辛いものだったが、皆"我が街を守る"という強い使命感に駆られたのだ」と発言した。
南三陸ホテル観洋女将・阿部憲子氏は「チリ地震津波の被災者だった父の教訓が活きた。ホテルは『高台の岩盤の上で、安全性が確保できる』という理由で場所を決めたほど防災への意識が高かった。避難者を多く受け入れたが、人々がバラバラになった姿を見て、"新しいコミュニティの始まりの場"の提供を意識するようになった。和室を開放し、そろばんや英会話などの学習塾を始めた。志望校に合格して喜ぶ学生の姿も多く見たが、やはり建物なくして『場』は提供できなかった」と被災地の住民の立場から意見を述べた。
芝浦工業大学大学院客員教授・谷口博昭氏は、元国土交通事務次官として豊富な行政経験を持つ専門家の立場から、被災当時の状況、課題の改善策を提言した。「道路啓開に『くしの歯作戦』を展開したことで、1週間で沿岸部に物資を届けることができた。国交省の当為的な指揮系統と、それに基づく地域建設業の迅速な活動、官民連携によって現場力が発揮された好事例だろう。ただし課題も残った。改善策は3つ。①スマホをはじめとした様々なツールによる情報公開・共有を進める、②一定の手順に従った、意思決定の迅速化を図る、③国と地方の財政的な逼迫感は今後も継続が予測される。ゆえに公助に頼りすぎない『自助・公助型社会』の構築に移行していく」ことを挙げた。
国土交通副大臣・西村明宏氏は「昨年発生した広島の大規模土砂災害は記憶に新しいが、雨の降り方が局地化するなど気象に変化がみられる。新たなステージに対応した防災・減災の在り方を、ハード・ソフト両面から総合的に検討する必要がある。担い手の確保は急務。そのために賃金水準の確保、社会保険加入促進等処遇改善を進める必要がある。建設業の皆さまには大きな使命感と誇りを持って活躍していただけるよう我々も取り組んでいきたい」と首都圏直下型地震等に向けた防災、減災の在り方について締めくくった。
上から/『3.11』(宮城建協)、震災時の建設業の活躍と役割を伝えるパンフレット(制 作 :建設産業戦略的広報推進協議会 資料提供・協力:(一社)全国建設業協会、(一社)群馬県建設業協会、(一社)広島県建設工業協会)、マンガ『知られざる英雄たち』(宮城建協)、マンガ『ただいま工事中!! 建築工事編』(北海道建協)、マンガ『雨のち晴れ』(京都建協)、東日本大震災を受けて制作されたDVD(宮城建協)
出展ブースルポ
建設産業が一体となった広報
建設業の役割を全国に伝えたい
建設産業戦略的広報推進協議会は、宮城県建設業協会と連携し、「せんだいメディアテーク」(仙台市)に展示ブースを出展した。これは建設産業のイメージアップ、若手の入職促進を目的としたものである。期間中は仙台建設業協会も展示ブースを出展し、建設産業が一体となった広報が実現した。
展示ブースへ来場してくれた地元の小学生
宮城県建設業協会名と『建設現場ヘGO!』のロゴマークが印刷された紙袋には、マンガ、DVD、携帯型LEDライト、総集編の記録誌『3.11』(宮城県建設業協会発行)、ウェットティッシュとハンカチ(建退共)、マンガ(北海道建設業協会、京都府建設業協会発行)、また、震災時の建設業の活躍と役割を伝えるパンフレット(制 作 :建設産業戦略的広報推進協議会 資料提供・協力:(一社)全国建設業協会、(一社)群馬県建設業協会、(一社)広島県建設工業協会)を同封し、来場者に配布した。
総集編の記録誌『3.11』を紹介する伊藤専務理事
出展ブースルポ
仕掛け人に聞く
「未来思考で行こうよ!」若い人たちを巻き込みたい
フォーラムの仕掛け人、宮城県建設業協会の伊藤博英専務理事は「専門的で堅苦しい場ではなく、若い人たちを巻き込みたかった。多くの人の協力で、業界関係者だけではなく、学生と保護者にも来場いただけた」と語る。3月16日のシンポジウムの様子は、4月8日付の地元一般紙(河北新報)で発信する予定だ。
「震災当時、建設業は何をしていたのか、 記録は無いのかと聞かれる。被災住民を前に、我々が作業しながら写真を撮るのはあまりに残酷だろう。少しずつ当時の写真やビデオが集まってきたので、それをまとめて関係者向けの記録誌を制作していたが、復興を終えるまで発行を続けたいという当協会長の意向で、日刊建設工業新聞社・佐々木メディア編集局局長の協力を得て、総集編を発行した。会場で一般にも配布したので、保管してほしい。我々も震災を振り返るときに、時系列で説明できる。記録誌は今後も無料配布し、資料として教育機関などにも寄贈する」とのこと。
最後に、ご自身の今後の目標を伺った。
「当協会では昨年から〝お父さんの仕事場〟という現場見学会を始めた。家族すら建設業の仕事や現場を知らない現状。建設業で働くお父さんの仕事を、家族にも見て知ってもらう。現場の一人ひとりが自分の仕事を紹介できることが大切」。