歴史資料

絵で見る江戸のくらし 18.鋼と踏鞴製鉄

文・絵=善養寺ススム

鋼と踏鞴製鉄

近藤勇の愛刀:長曾根虎徹(ながそねこてつ)は明るい刀
土方歳三の愛刀:和泉守兼定(いずみのかみかねさだ)は暗い刀

 前回は工具のお話でしたが、今回はその材料、鉄のお話でございます。
 来年は日本史好きの人には大事な年、幕末維新(大政奉還)一五〇周年です。この夏から秋はそれに向け、幕末の志士四人の愛刀を調べて描き、手ぬぐいにするというプロジェクトをいたしました。そのうちに、「我が家の刀も描いて欲しい」というご依頼を頂くようになり、さらに勉強しなければと思っている次第です。今回、特定の刀を追いかけながら学んでみますと、その個性の豊かさに驚きました。
 絵の日本刀は、上が新撰組・近藤勇の愛刀・虎徹、下が土方歳三の愛刀・兼定です。実際の作品は横幅九〇センチほどあります。見た目の大きな違いは刀の色ですよね。こんな違いがあるなんて以前は思ってもいませんでした。
 これは刀工が選ぶ鋼やその鍛え方に寄るのだそうです。刀の材料としてよく耳にするのが《玉鋼(たまはがね)》です。しかし、玉鋼を使ってさえいれば、すべてが同じように強靱な刀になるわけではないのです。

踏鞴製鉄では砂鉄13t、木炭約13tで鋼が約2.5t作られる

 近藤勇が激しい戦闘の結果を記した手紙などによりますと、他の刀は刃がこぼれ、切れ、曲り、折れてしまうのだそうです。しかし、絵の二本は幾度の激しい闘いでも折れも曲りもしなかったそうです。それもまた、刀工による鋼の鍛え方、言わば「鉄の分子の建築方法」で異なるというのですから驚異です。
 鋼(和鋼)は、砂鉄から作られます。その生産に使うのが《踏鞴製鉄(たたらせいてつ)》です。これは江戸中期に開発された方法で、それ以前はもっと小規模な炉で生産しました。
 方法は、土で大きな四角い炉を作り、中に炭と砂鉄を交互に重ね、火を入れます。両側にある大きな天秤鞴(てんびんふいご)は、足で踏んで風を炉に送る装置です。鞴の風は幾本もの筒によって炉の下方に送り込まれる仕組みで、三日三晩燃やし砂鉄を溶かし、鉄を作り出します。
 炉の前に流れ出ている鉄は鋼ではなく《銑鉄(せんてつ)》で、鋳物などに使われる種類の鉄です。一方、鋼は炉の底にできるので、炉を壊して取り出します。その中の最も質の良い物が玉鋼です。それ以外は包丁や工具など様々な道具に使われる鋼となります。 もちろん、玉鋼も包丁や工具にも使われますが、全体の一割程度と少量しか取れませんので、極めて高価です。
 同じ踏鞴製鉄で作られた鉄でも、いろいろな種類があり、同じ鋼でも刀と包丁、工具とは使用環境が違うので、適した鉄も鍛え方も異なるわけです。 大工道具は木を相手にする刃です。どんな特性の刃が、どんな工具に求められるのか、追いかけて見ますと、これまた至極の智恵にたどり着けそうです。

 
善養寺ススム


1965年生まれ。『江戸の用語辞典』(廣済堂出版)著者。イラストレーター、江戸研究家。江戸時代に育まれた「江戸の間(ま)思考」を研究。その他『江戸の町とくらし図鑑』『江戸の人物事典』『江戸の女子図鑑』『東海道中栗毛弥次馬と江戸の旅』など

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