竪穴式住居で日本建築について考える
復元された竪穴住宅
11月の終わりに、八ヶ岳を訪れまして、あるカフェの庭先に造られた竪穴式住居で囲炉裏にあたってきました。
竪穴式住居は旧石器時代後期から平安時代まで、長い間用いられた日本の建築様式で、全国各地の遺跡公園などで復元されたものを見ることができます。しかし、実際に火を焚いて居住環境を体験することはなかなかできませんので、貴重な経験でした。
竪穴式の「竪穴」は「地面にタテに穴を掘っている」ことから名付けられたそうです。その「穴」というのは、柱を立てる穴ではなく、浅堀りした居住スペースのことを指します。
ですが、何故地面を掘って家を建てたのでしょうね? 素人考えですと、大雨の時などに浸水する可能性があります。湿気も多いのではないかと想像してしまいますが、当時は今ほど雨が降らなかったのでしょうか? 疑問がいっぱいでした。
しかし、こうして実際に建てられた竪穴式住居に入ってみると、そんな心配はないのだということが分かります。この日は、2日前に降った雪が解け、気温は2℃という気候でした。風は時折強く吹き付けましたが、雪解け水が浸水したり、ジメジメしたりする感じはありませんでした。オーナーいわく、「ここで火を囲んでお酒を飲んで、そのまま眠ってしまうのが最高」なんだそうです。
ところが、遺跡から発見されるのは、地面に残された跡だけです。残念ながら地上部分は発見されていないので、どんな構造物だったのか、はっきりとは分かりません。そのため、復元小屋の多くが、今に残る茅葺き屋根の構造を用いています。
私の体験した竪穴式住居は、入母屋型でした。これなら天井上部左右に開いた破風から、煙を出すことができます。一方で、風が破風を抜けると、室内全体の空気を吸い出していくので、現代住宅のように室温が維持されるものではありません。
暖房は囲炉裏が担います。火に当たることと、温められた地面とで、居住環境を良くしています。現代の家が、主に室内の空気を暖める「空気暖房」であるのに対し、竪穴式住居は火と土間の熱による「輻射暖房」なわけですね。
建物の埴輪には大きなうだつのようなものが付く
縄文弥生の頃の土偶には建物をかたどったものはないのですが、古墳時代になると埴輪に建物が登場しますので、その形の概要が分かります。素材までは確定できないものの、主に茅葺きか板葺きのようです。
茅葺き屋根は保温力が高く、室内と室外の温度差が大きいときにその力を発揮します。石や金属など、熱伝導率の高い屋根素材だと、外部環境に大きく影響され、その熱を屋根裏に伝えてしまいます。ですから、現代の建物でも二階など屋根に面した部屋は、夏には特に暑いものです。屋根の断熱性能は住み心地に大きく影響するのですよね。
植物性の屋根の欠点は、乾燥すると燃えやすいということです。「それなのに中で火を焚いて、燃えないのか?」という疑問が湧きますね。実際、私が入った竪穴式住居も、天井は決して高いわけではありません。しかし、熱の当たるところは煙の当たるところでもあります。天井に煙が当たると、煙はそこで冷やされてタール等が付きます。つまりいぶされるわけですね。これによって、燃えにくくなると同時に、カビにも強くもなり、通常の使い方で屋根が燃え出すことはありません。
それにしても、今では茅葺き屋根も減る一方で、この2万年の知恵、現代では活かされていないのが残念ですよね。せめて景観だけでも維持できる茅葺き屋根材は作れないか? 竪穴式住居の囲炉裏の火にあたり、考えているうちに、ウトウトとしてしまいました。
善養寺ススム
1965年生まれ。『江戸の用語辞典』(廣済堂出版)著者。イラストレーター、江戸研究家。江戸時代に育まれた「江戸の間(ま)思考」を研究。その他『江戸の町とくらし図鑑』『江戸の人物事典』『江戸の女子図鑑』『東海道中栗毛弥次馬と江戸の旅』など