経済

建設経済の動向

政府による復旧・復興に係る 建設投資が及ぼす経済効果

建設経済研究所

1207_15_kaleidscope_1.jpg 近年、縮小が続いてきた国内建設市場は、甚大な被害を及ぼした東日本大震災の復旧・復興により増加に転じ、2011年度の名目建設投資は前年度比2.7%増の41兆9,900億円となった。今後は、政府建設投資について震災関連予算の編成及び執行により増加が見込まれ、さらに民間建設投資についても震災後の停滞から持ち直しており、緩やかな回復基調が継続するとみられる。
当研究所が2012年1月に発表した「建設経済モデルによる建設投資の見通し」においては、政府による震災復旧・復興等に係る建設活動の総額を7兆3,158億円と推計した。これらの数値に、被災地における復旧・復興の状況を加味し、執行率を設定、2011年度の執行金額を約2兆5,350億円、2012年度を約4兆5,650億円とし、2年間の執行総額を約7兆1,000億円とした。

 

 これら政府による復旧・復興に係る建設投資がマクロ経済に及ぼす影響を把握するため、当研究所が所有する「建設経済モデル」(建設投資活動を需要動向、金利などと関連づけた方程式体系で表し、マクロ的な景気の動きと整合する形で建設投資の見通しを描くことを目的としたマクロ計量経済モデル)を用い、震災復旧・復興等に係る建設投資がなかった場合との比較をすることで、その経済効果を算出した。
なお、今回の経済効果算出においては、当研究所が2012年1月に推計作業を行った「建設経済モデルによる建設投資の見通し」を基本とし算出している。
まず、政府による復旧・復興に係る建設投資のうち2011〜2012年度の2年間の執行総額7兆1,000億円が建設投資全体に及ぼす影響を試算すると、名目建設投資については、2011年度は2兆5,900億円、2012年度は4兆9,600億円引き上げることになる。2年間の総額で約7兆5,500億円引き上げ、公共投資の増加が民間住宅投資や民間非住宅建設投資にも波及効果を及ぼすことがわかる。
同様に、政府による復旧・復興に係る建設投資7兆1,000億円がマクロ経済全体に及ぼす影響を試算すると、実質GDPについては、2011年度は約2兆4,500億円(GDP比0.48%)、2012年度は約5兆2,000億円(同1.02%)引き上げる。名目GDPについては、2011・2012年度の2年間で総額約8兆1,600億円引き上げ、この効果を2010年度と比較すると、名目GDPを1.7%引き上げることになる。復旧・復興に係る建設投資を含む政府建設投資は、他の民間建設投資部門への波及効果に加え、需要増による乗数効果により、有効需要全体の増加に大きく貢献することが示されている。また、公共事業は、建設業の雇用創出だけでなく、さらに波及効果を通じて雇用全体へも影響を与えると考えられる。

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 また、この経済効果は、「GDPギャップ(デフレギャップ)」の解消にも大きく寄与する。GDPギャップとは、現在の資本や労働が平均的な水準で利用された場合に達成できると考えられる潜在GDPと現実のGDPの差で、日本経済の需要と潜在的な供給力の乖離を示すものである。近年の我が国は、需要が供給力を下回るデフレの状況が続いており、GDPギャップは、内閣府公表の潜在GDPによると15〜20兆円程度で推移してきた。しかし、政府による復旧・復興に係る建設投資により、実質GDPの水準は高まり、GDPギャップが急速に縮小、デフレ状態が弱まることになる。しかし、現状で予算化されている政府の復旧・復興に係る建設投資では、2012年度後半以降が落ち込み、再びGDPギャップに従来の乖離が生まれてしまう。
今後、本格化する復興を含む建設投資需要は、GDPギャップ解消にも大きく寄与するものであり、またその後の安定的な経済成長を支える重要な社会基盤となるものである。東日本大震災以降、政府による震災関連予算の編成及び執行が進められているが、被災地における復興計画にも課題が残る現状を踏まえると、これまでの予算では手当することができていない震災関連予算もあると考える。被災地の復旧・復興を円滑に実施するためには、事業の迅速かつ適切な執行及び今後の十分な事業費の確保が求められる。

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