経済

日本経済の動向

「良いドル高」か「悪いドル高」か|円ドル相場の行方

みずほ総合研究所 チーフエコノミスト 高田 創

2016年の円ドル相場は年初来円高が進んだが、11月の米国大統領選挙以降、急速な円安となった。
この背景としては、トランプ氏が新大統領に当選したことにより、米国の金融・財政政策のポリシーミックスが転換したことが考えられる。
今回は、円ドル相場の動向と今後の行方などについて解説する。

 
図1 円ドル相場推移

(資料)Bloombergよりみずほ総合研究所作成
図2 円ドル相場と想定為替レート推移

(注) 想定為替レートは日銀短観の大企業・製造業ベース。上期は6月調査、下期は12月調査の想定レートを参照 (資料)日本銀行、Bloombergよりみずほ総合研究所作成
図3 日本株の投資主体別売買動向(週次)

(注) 二市場一・二部合計
(資料)東京証券取引所よりみずほ総合研究所作成
1

トレンド転換のカギを握るのは米国

 筆者が為替について長らくストーリーラインとしてきたのは、「達磨さんが転んだ」に例えることである。すなわち、中期的トレンド転換のきっかけは、歴史的にみていつも「鬼」である米国サイドにあるということだ。
 近年の円ドル相場を振り返れば、2007年以降、米国は大恐慌以来のバランスシート調整に陥り、量的緩和を用いて自国通貨安政策を行った(図1⑥)。その後、12年後半以降は、米国が自国通貨安政策を転換させたことで、為替の転換が生じた(図1⑦)。アベノミクスは、米国経済の回復、為替政策の転換もあって出来たことといえよう。
 そして120円台まで至った円安トレンドは、2016年年初来の「達磨さんが転んだ」で100円台前半までドル安調整(円高)が進んだ(図1⑧)。円ドル相場と想定為替レートの推移をみると、16年2月には想定レートよりも円高となる局面が生じ(図2)、アベノミクス始まって以来の円安株高の好循環が止まった。

2

トランプ政権の為替評価はいかに

 これに対し、2016年11月のトランプ氏の米国大統領当選以降、再びドル高に転換し、想定レートを上回る円安が生じて、株価が上昇基調に戻った。これは日本経済にはまさに「神風」となった。そこで、今後米国がどこまでドル高を許容するかが重要になる。トランプ政権が望む形のドル高、つまり「良いドル高」ならある程度許容されるだろう。一方、ドル高が米国の雇用を奪う「悪いドル高」とみなされれば、再び「達磨さんが転んだ」の転換が生じうることを覚悟する必要がある。
 トランプ氏が米国内のインフラ投資を重視するなか、米国への投資資金流入は特に重要になる。その結果、ドルが上昇しても、企業活動の活発化や、株式市場の上昇、雇用環境の改善が続くうちは、一定のドル高が許容されよう。このように、1980年代前半のレーガノミクス的な米国への資金還流を志向する潮流が再び生じうる。米国大統領選挙後の日本の株式市場は、日本人が売り、海外投資家が買うというコントラストを呈しているが(図3)、日本の市場参加者にも意識の変化が必要な状況といえる。

ページトップ

最新記事

最新記事一覧へ