経済

日本経済の動向

「未来投資会議」で示された建設業の道筋|首相自ら「生産性2割向上」を宣言

日経コンストラクション編集長 野中 賢

政府が産業競争力会議などの後継として設けた「未来投資会議」。
成長戦略をリードする新たな司令塔として、「第4次産業革命」を推進するのが狙いだ。
9月12日に開催された第1回会議でテーマとなったのは、建設現場の生産性向上。
安倍晋三首相から、2025年までに建設現場の生産性を20%向上させる目標が示された。

 
図 成長戦略に関する今後の検討事項など

■イノベーションと構造改革による社会変革(Society5.0)を目指して、成長戦略を三つの切り口で展開  ●国民生活の利便性の抜本改革  ●地方を主役に、世界を目指す  ●人工知能、ロボット、IoTなどの技術革新を社会実装し、産業構造改革を促す ■成長戦略の新たな司令塔として「未来投資会議」を創設し、その下に主要分野の「構造改革徹底推進会合」を設置 ■今後の検討事項  ❶第4次産業革命(Society5.0)をはじめとするイノベーションの社会実装  ●産業界の取り組み(「協調領域」と「競争領域」の峻別、企業・系列の枠を超えた「プラットフォーム」の形成など)を本格化  ●新技術の社会実装で国民生活の利便性を抜本的に向上  ●事業活動の抜本的変革・生産性向上により、生産年齢人口の減少などの社会課題を解決  ❷構造改革の総ざらい  ●本来実現すべき目的の達成状況を多角的に検証し、目的達成に真に必要となる構造改革課題を抽出  ●既存施策の深掘り・前倒しや新たな取り組みの抽出、産業界への取り組みの本格化の要請

第1回未来投資会議配布資料から要旨を抜粋して作成

 「建設現場の生産性を、2025年までに20%向上させるよう目指します」。9月12日の第1回未来投資会議で、安倍晋三首相はこう述べた。建設現場の生産性向上の必要性はかねて指摘されてきたが、その数値目標について首相が宣言したのだ。
 未来投資会議は、これまで政府が運営してきた「産業競争力会議」と「未来投資に向けた官民対話」の後継として一本化したもの。政府の成長戦略を描く新しい司令塔となる。

1

最初の議題として取り上げられたのは
建設業の人手不足が深刻である証し

 会議での検討事項は下図に示したとおりだ。安倍政権ではこれまで、農業やエネルギーなど様々な分野で構造改革を実施してきた。しかし政府には、「アベノミクス」はまだ道半ばだという認識がある。産業界の動きを活発化し、近年のめざましい技術革新を国民生活や社会に取り入れるためには何が障害になっているのか。改めて明らかにし、その解決を図っていくのが会議の目的だ。
 未来投資会議とともに、その下に「医療・介護」、「ローカルアベノミクスの深化」といった分野ごとに「構造改革徹底推進会合」も設置して、検討を始めている。2017年1月をめどに中間的な課題整理を行い、年央には成長戦略を取りまとめる考えだ。
 こうした全産業を俯瞰した会議で、最初の話題として建設業が取り上げられたのはなぜか。政府が建設業の人手不足を深刻に捉えていることの証しだ。今後、リニューアルすべきインフラが増えていくのに加え、2020年の東京五輪に向けて多くの建設プロジェクトが実施される。ICT(情報通信技術)などを活用して建設現場をこれまでとは違うものにしていかないと、投資すべきところに投資できなくなってしまう――。石原伸晃経済再生担当相は、会議後の記者会見でこうした趣旨の発言をしている。

2

ドローンや三次元データの活用で
3Kイメージを払拭し人手不足を解消

 では、「建設業の生産性の2割向上」は、どのような手立てで行うのか。冒頭の発言に続き、安倍首相は以下のように述べている。
 「3年以内に、橋やトンネル、ダムなどの公共工事の現場で、測量にドローン等を投入し、施工、検査に至る建設プロセス全体を三次元データでつなぐ、新たな建設手法を導入します。人手による現場作業が置き換わり、これまで習得するのに何年もかかったノウハウも数カ月で身に付けられるようになる。3Kのイメージを払拭し、多様な人材を呼び込むことで、人手不足も解消します。全国津々浦々で中小の建設現場も劇的に変わります」。
 これは、国土交通省が旗振り役となって推進している「i-Construction」の目指す姿。施工でのICTの活用に加え、構造物の規格の標準化による施工効率の向上や、発注時期の平準化などによって、建設産業の生産性を高める取り組みだ。既に今年度から本格化しており、読者は未来投資会議の内容にさほど目新しさを感じないかもしれない。しかし、第1回会議の議題となり、首相自ら数値目標を宣言した意義は大きい。

ページトップ

最新記事

最新記事一覧へ