経済

日本経済の動向

国土交通省発注工事の入札・契約状況|平均落札率が5年ぶりに下落

日経コンストラクション編集長 野中 賢

東日本大震災が発生した2011年度以降、上昇を続けていた工事の平均落札率。
2015年度は前年度に比べ1.24ポイントのマイナスで、5年ぶりに下落した。
震災を契機に急増した工事入札の不調も大きく減少。
工事の発注量が減少傾向にあり、受注競争に再び激化の兆しが見えてきた。

 
図1 地方整備局の工事発注金額と平均落札率の推移

「国土交通省直轄工事等契約関係資料」を基に作成。全国8地方整備局の工事発注金額の合計と、工事入札での平均落札率を示した。
図2 地方整備局の工事での入札不調発生率の推移

「国土交通省直轄工事等契約関係資料」を基に作成。全国8地方整備局の工事について、入札不調の件数を入札件数で除した。入札不調の件数は、再発注手続きを行い当該年度に契約を締結した件数の合計。

 国土交通省は毎年秋、「国土交通省直轄工事等契約関係資料」を取りまとめ、前年度に実施した工事と建設コンサルタント業務の入札・契約の状況を公表している。2016年11月に発表した同資料で、2015年度発注工事の発注金額や落札率などが明らかになった。
 過年度の資料も併せ、ここ10年間の工事発注金額と平均落札率の推移を図1にまとめた。このグラフから分かる通り、東日本大震災が発生した2011年度以降、4年連続で上昇を続けていた平均落札率が、2015年度は5年ぶりに下落した。

1

落札率は全地方整備局で下落
九州地整では90%を下回る

 2015年度に国土交通省の8地方整備局が発注した7,293件の工事(一般競争入札と指名競争入札の合計)の平均落札率は91.15%。近年で最高となった2014年度(92.39%)から1.24ポイント下落した。ただし、下げ幅は大きかったものの、過去10年の中で3番目に高い水準を維持している。
 地方ごとに見て大きな差はなく、落札率は全ての地方整備局で満遍なく下落している。なかでも、2014年度に地方整備局別に見て落札率が最も低かった九州地方整備局(91.05%)の下落幅が最も大きく、2015年度の落札率は89.15%と、地方整備局の中で唯一、90%を下回った。
 また、入札を実施しても落札に至らなかった「入札不調」についても変化が見られた(図2)。入札不調が発生した割合は、2012年度以降4~7%という高水準で推移していたが、2015年度は3.8%と、前年度の6割の水準にとどまった。入札不調は東日本大震災以降、問題がにわかにクローズアップされた。しかし、震災から約5年が経過し、人や資材の不足感は一時に比べて落ち着いてきたようだ。

2

発注量の減少が2年続くと
落札率が下落する傾向に

 ここ数年、落札率と入札不調の割合が上昇基調にあったのは、先ほどの図1の通り、工事発注量増加の影響が大きい。発注量が増えると、各社は利益率の見込める工事を中心に受注する「選別受注」に動く。入札参加者数の減少は、落札率の押し上げ要因となる。また、利益率の確保が難しいと判断した工事では、入札参加者が集まらなかったり、各社の入札金額が予定価格を上回ったりして、入札不調が生じやすくなる。
 一方、2014年度以降は2年続けて発注工事量が減少したことから、状況に変化が生じている。落札率や入札不調の割合が低下したのは、競争環境の激化による影響が大きいようだ。
 ただし、工事量が減少した1年目は、手持ち工事が残っている会社も多く、少ない工事を無理して取りにいく状況ではなかったとみられる。その結果、落札率の下落は、発注量の減少から1年遅れて生じたようだ。直近で発注量が2年連続で減少した2008~2010年度も同じ傾向だった。

ページトップ

最新記事

最新記事一覧へ