経済

日本経済の動向

「未来への投資を実現する経済対策」のポイント|6兆円投じてインフラ整備を加速

日経コンストラクション編集長 野中 賢

政府は8月2日、「未来への投資を実現する経済対策」を閣議決定した。
対策の事業規模は28兆円に及び、実質GDPの1.3%程度の押し上げを見込む。
目玉となるのがインフラ整備だ。
国と地方の財政支出などで約6兆円を投じ、リニア中央新幹線の大阪延伸の8年前倒しや、観光振興のためのインフラ整備を進める。

 
図1 原油相場の見通し (単位:兆円)
主な施策 事業規模 財政措置
国・地方の歳出 財政投融資
一億総活躍社会の実現の加速 3.5 2.5 0.9
21世紀型のインフラ整備 10.7 1.7 4.4
英国のEU離脱に伴う不安定性などのリスクへの対応、中小企業や地方への支援 10.9* 0.6 0.7
熊本地震や東日本大震災からの復興や安全・安心、防災対応の強化 3.0 2.7 0.0
合計 28.1 7.5 6.0
図2も、内閣府の資料をもとに作成。金額は概数。*については、金融情勢に応じて、金融機能強化法などの延長に伴う政府保証枠32兆円の予備的措置を別途、講じる。
図2 インフラ整備の主な施策

❶ 外国人観光客4000万人時代に向けたインフラ整備  大型クルーズ船の受け入れ環境の改善/羽田空港などの機能強化/鉄道駅のバリアフリー化/良好な水辺空間の形成による観光地の魅力向上 ❷ 農林水産物の輸出促進と農林水産業の競争力強化  国内外での輸出拠点の整備/農地の大区画化 ❸ リニア中央新幹線や整備新幹線などの整備加速  リニア中央新幹線、整備新幹線、高規格幹線道路などの広域的な高速交通ネットワークの整備・活用/大都市圏環状道路などの物流ネットワークの強化、渋滞対策/開かずの踏切などの対策(連続立体交差事業の推進)/国際コンテナ戦略港湾などの機能強化 ❹ インフラなどの海外支援  国際協力銀行(JBIC)、国際協力機構(JICA)、海外交通・都市開発事業支援機構(JOIN)を通じた日本企業の海外インフラ展開支援/ 政府開発援助(ODA)を活用したインフラ輸出、中小企業などの海外展開支援/質の高いインフラ普及促進事業 ❺ 生産性向上に向けた取り組みの加速  IoTを活用した社会システム整備事業/i-Constructionの推進

 「未来への投資を実現する経済対策」の事業規模は、平成以降3番目に大きい28兆1,000億円。国や地方の歳出分は7兆5,000億円程度で、うち国費が6兆2,000億円を占める。
 インフラ整備や熊本地震からの復興のほか、子育て支援や英国の欧州連合(EU)離脱を受けた中小企業への資金繰り支援など、四つの柱に沿って幅広い施策を推進する(図1)。

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リニア新幹線やインフラ海外展開など
成長分野に思い切って投資

 目玉となるのが「21世紀型のインフラ整備」だ。事業規模は10兆7,000億円。国や地方の歳出と、財投債を原資とする財政投融資を合わせた財政措置は約6兆2,000億円で、4施策の中で最も額が大きい。
 インフラ整備の主な施策を図2に示した。「成長への投資となるものは思い切って行い、中長期的に成長していく基盤を構築する」とうたっているとおり、メリハリを付けて成長分野に投資するのが特徴だ。
 金額的に大きいのが、リニア中央新幹線の整備だ。現在の低金利状況を生かし、財政投融資を積極的に活用することで、整備を加速する。2027年の東京―名古屋間の開業を目指して既に事業着手しているが、2045年に予定している大阪延伸を最大で8年間、前倒しすることを目標に掲げた。
 安倍政権が力を入れるインフラ海外展開へのさらなる支援も行う。今年5月に伊勢志摩サミットで公表した「質の高いインフラ輸出拡大イニシアティブ」では、今後5年間で日本企業の海外事業の受注・参入を後押しするため、インフラ分野に約2,000億ドルの資金を供給することを目標としていた。それに基づき、国際協力銀行(JBIC)や国際協力機構(JICA)などの財務基盤の強化を通じて、海外インフラ展開を支援する。
 観光振興のためのインフラ整備も打ち出した。現状の年間訪日外国人旅行者数約2,000万人を、2020年に4,000万人、2030年に6,000万人まで増やすために、大型客船の受け入れに向けた港湾整備や空港の機能強化、公共交通施設のバリアフリー化などを進める。

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具体的な事業を盛り込み
2016年度の第2次補正予算案を決定

 そして、政府は8月24日、経済対策に示した具体的な事業を盛り込んだ2016年度第2次補正予算案を決定した。予算の大半はインフラ整備に振り向ける。国土交通省は国費で1兆2,257億円を投じ、観光振興のためのインフラ整備や、災害対策などを推進する。
 インフラ整備では、外国人観光客の受け入れに備えて港湾や空港の整備事業などに予算を配分。166億円を投じて既存の岸壁を改良するなどして、大型クルーズ船の受け入れ環境を改善するほか、羽田空港の機能強化などにも101億円を充てる。鉄道駅のバリアフリー化や地下鉄の新線建設などの推進には53億円を確保。リニア中央新幹線や整備新幹線などの整備には3,212億円を計上した。リニアなどについては合計2兆3,279億円の財政投融資も活用する。

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