経済

日本経済の動向

導入が始まった「技術提案・交渉方式」|設計に施工者の関与強め事業を効率化

日経コンストラクション編集長 野中 賢

業界を挙げて進む生産性向上。ただし、個別業務の効率化だけでは効果は限定的だ。
「全体最適」を実現するために、事業の進め方を見直していく必要がある。
切り札の一つとされているのが、新たな入札・契約方式である「技術提案・交渉方式」。
設計段階から施工者が関与することで、工事をより円滑に進められると期待されている。

 

 2014年6月に施行された改正品確法(公共工事の品質確保の促進に関する法律)では、多様な入札・契約制度の導入と活用がうたわれている。一例として示されているのが「技術提案・交渉方式」だ。難易度が高い工事や、施工条件が特殊で工事発注前に仕様を確定するのが難しい工事などが対象となる。
 特徴は、施工者が設計を含めて受注したり、設計者に技術協力したりする点だ。設計段階から施工者のノウハウを取り入れることによって、工事着手後の大幅な変更などを避け、工事を円滑に進められるメリットがあるとされる。

図 技術提案・交渉方式の流れ

国土交通省の資料をもとに日経コンストラクションが作成。事例のカッコ内は発注者名
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ガイドラインに示された3類型
ECI方式は橋梁補修工事にも適用

 国土交通省が2015年6月に作成したガイドラインでは、施工者の関与の度合いと工事価格決定のタイミングに応じて「設計・施工一括タイプ」(デザインビルド)、「技術協力・施工タイプ」、「設計交渉・施工タイプ」の三つを用意した(右図)。
 このうち、ECI(アーリー・コントラクター・インボルブメント)方式の一種である技術協力・施工タイプの場合、発注者はまず、技術提案に基づいて選んだ優先交渉権者と技術協力業務契約を結ぶ。別途発注した設計業務に技術提案の内容を反映させながら価格などを交渉。交渉が成立した場合に、優先交渉権者と施工契約を結ぶ方式だ。
 すでに導入も始まっている。新設工事では、九州地方整備局が熊本地震で被災した国道57号の復旧ルートを整備する「熊本57号災害復旧二重峠トンネル工事」(阿蘇工区と大津工区)に適用した。
 また、北陸地方整備局は金沢市内の交通の要衝である国道157号犀川大橋の補修工事に同タイプを用いる方針だ。技術協力業務では、設計への協力や施工計画の作成、概算工事費の算出などを行う。参考価格は、技術協力業務が400万円、補修工事が5,000万~1億5,000万円。規模が比較的小さく、今後発注が増加するとみられる橋梁の補修工事で効果が認められれば、技術提案・交渉方式の裾野は広がるだろう。

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価格の妥当性や透明性確保に課題
適用が遅れると効果が得られないことも

 ただし、課題も少なくない。国土交通省は2016年8月に開いた「総合評価方式の活用・改善等による品質確保に関する懇談会」(座長:小澤一雅・東京大学大学院教授)で、技術提案・交渉方式による発注で想定される課題として、「技術協力業務や設計業務の期間設定」、「評価項目の設定」、「発注者側の審査体制など」、「価格の妥当性・透明性の確保」を挙げた。
 適用のタイミングが遅れるとほとんど効果を得られないことも指摘されている。建設費の高騰などを理由に計画の白紙撤回を余儀なくされた新国立競技場の整備事業には、ECI方式が適用されていた。しかし、契約条件の確定などに手間取り、技術協力者・施工予定者に選ばれた大成建設と竹中工務店が設計協力を始めたころには、実施設計がかなり進行しており、提案を反映させる余地がほとんどなくなってしまった。
 国土交通省は技術提案・交渉方式の普及を促す考えだ。直轄工事などでの発注手続きを通じて課題を抽出し、今後のガイドラインの改定に反映していく。

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