経済

建設経済の動向

東日本大震災被災3県における建設業資金動向分析

建設経済研究所

 建設業に対する貸出動向に関し、国内全体の動向については日銀が公表するデータを用いたが、統計資料で把握できるものがない被災3県の動向については、各金融機関の開示資料をもとに数値を積み上げた。この中で地域的な貸出動向を把握する観点から、大手銀行を除いた地方銀行・第二地銀・信用金庫の開示資料を用いたが、開示内容の性格上、被災3県のデータは被災3県に本店を置く金融機関の貸出額合計であること、地域金融機関の貸出金を集計しているため、把握される貸出先は中堅・中小企業が大半となること等に留意願いたい。

 

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 図表1は全国における全産業合計および建設業を含め相対的に貸出額の大きい業種向けの貸出金残高推移を、2011年3月末を100としてまとめたものであり、図表2は同様のものを被災3県についてまとめたものである。全国の貸出動向については、全産業合計では震災前後で貸出残高は概ね横ばいであった。業種別には震災までの1年間で比較的残高を大きく減らした製造業と卸・小売業向けでは震災以降減少にある程度歯止めがかかったものの、同様に残高を減らしてきた建設業向けでは、2011年9月末にかけ半年でさらに3.2%の減少となり、その後も低位の状況が続いている。
 これに対し被災3県では、全産業合計の残高は震災以降増加し、震災後の1年で5.8%の増加となった。これを牽引したのは震災前までの1年間で比較的残高を減らしていた製造業向けであり、震災直後と比較して半年で6%の増加、1年で50.5%の増加となった。この中で製造業向け以上に震災前の1年間で残高を減らしてきた建設業向けでは、震災直後と比較して0.1%の増加に留まった。前述したとおり大きく残高を減らした全国平均での動向と比較すると被災3県では僅かながら増加に転じているものの、震災からの復旧・復興や震災からのV字回復のための設備投資需要が出てきていると言われる製造業向けをはじめ、卸・小売業向けについても3%を超す増加を見せている中では、建設業向け貸出の動向は動意に欠けると言えよう。

 

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 図表3は全国における貸出総額に占める主要業種の割合の推移を示したものであり、図表4は同様のものを被災3県について示したものである。全国・被災3県いずれにおいても、建設業の占める割合は震災前後を通じて一貫して緩やかに低下を続けている。これに対して製造業は被災3県において震災以降急激に割合を高め、2012年3月末には不動産業を抜いて全業種中最大の割合となるに至った。全国・被災3県いずれにおいても建設業向け貸出金の割合が低下しているのは、全国においては貸出総額が概ね横ばいで推移する一方、建設業向け貸出金が減少していること、被災3県においては震災後に製造業が牽引する形で貸出総額が伸びた一方で、建設業向け貸出金が伸び悩んでいることが背景にある。

 

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 図表5は建設業保証会社3社の公共工事前払金保証統計を、前年同期比の増加率の観点でまとめたものである。これによると全国における公共工事請負金額は2011年度上期以降緩やかな増加にとどまっている一方で、被災3県においては2011年度下期に入り極めて大きな伸びを示していることが分かり、前払金の利用も大きく伸びていることが窺える。また図表6は土木建設機械のリース取扱高の推移をまとめたものである。これによると震災発生以降、リースの取扱高が毎月前年同月対比プラスで推移していることが分かる。
 震災からの復旧・復興工事の発注が本格化してきたと言われる中で、被災地においても建設企業向けの貸出金が増加していないことが分かったが、この背景には工事の増加に際し高まっている機材導入ニーズに対してはリースを活用し、運転資金需要に対しては2011年4月より前払率の引上げや中間前払金の支払要件が緩和された前払金制度を従来以上に活用することで、被災地の建設企業は借入を増やさずに資金繰りの安定化に努めている様子が窺える。

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