経済

建設経済の動向

建設業景況調査

建設経済研究所

1.建設業景況調査とは

 建設業景況調査は、大手ゼネコンを除く地域の建設企業を対象に、地元建設業界の景気、受注、資金繰り、資材、労務等の経営動向や経営上の問題点を調査し、建設業のおかれている状況を総合的に迅速かつ的確に把握することを目的として、前払金保証事業を営む保証事業会社3社(北海道建設業信用保証会社、東日本建設業保証株式会社、西日本建設業保証株式会社)によって昭和56年度から行われている調査(以下「景況調査全国版」という。)である。その調査対象企業数は2,847社、有効回答企業数は2,483社(いずれも第127回調査実績)となっており、これは建設業界の景況調査としては最大規模のものである。また、平成23年3月に発生した東日本大震災により甚大な被害があった地域の建設企業の景気動向を把握する目的で、東日本建設業保証株式会社が東日本大震災被災地版(以下、「景況調査被災地版」という。)を集計し、平成23年度第1回調査から公表している。
 本稿では、景況調査被災地版から一部を抜粋して、震災直前から現在までの被災地と被災地外の建設業界の動向を比較、考察したい。なお、調査結果の全体やグラフの見方等は保証事業会社のホームページを参照されたい。

2.建設業景況調査結果と東日本大震災後の被災地と被災地外の動き

(1) 地元建設業界の景気

 被災地の地元建設業界の景気については、東日本大震災直後の2011年6月調査まで「悪い」傾向が続いていたものの、同年9月調査で「良い」に転じた。それ以降は「良い」傾向が続いており、直近のB.S.I値は15.0となっている。
 一方、被災地外の直近のB.S.I値は▲17.0で依然として「悪い」傾向が続いており、被災地との景況感の差がはっきり現れている。

(2) 受注

 次に受注については、震災直後の2011年6月調査までは「減少」傾向が続いていたものの、民間による応急復旧工事が増加したこと等から同年9月調査で「増加」に転じている。その後、津波で発生した膨大ながれきの撤去が進み、同年10月以降には官公庁工事についても発注が本格化したと見られる。被災地の直近のB.S.I値は10.0、被災地外は▲11.0となっている。

(3) 資材の調達・労務の確保

 被災地の資材の調達については、製造工場の被災や道路寸断による流通の支障、仮設住宅の緊急需要などが影響し、発災直後の資材の調達はかなり困難であった。その後は徐々に落ち着きを取り戻したものの、復旧・復興工事の本格発注にともない、例えば生コンなど一部の資材の不足感が高まっている。大震災で破壊された被災地沿岸の堤防や港湾施設の復旧には膨大な量の生コンが必要であるが、生コンは地産地消という性質上、他県から運び込むことが困難である。海上生コンプラント船を導入するなどの動きも見られるが、今後さらに復旧・復興工事の発注が本格化すれば、計画的な資材調達ができず復興が遅れるのではないかといった声も聞かれる。被災地の直近のB.S.I値は▲12.5、被災地外は▲1.0となっている。
 労務の確保については、大震災直後から「困難」な状況となり、現在も「困難」な傾向が続いている。建設市場の低迷に伴い、建設業界はスリム化を進めていたため被災地では急激な需要増に対応できない状態で被災地の直近のB.S.I値は▲30.0となっている。
 また、労務の不足は被災地に限ったことではなく、被災地外は▲14.5と困難な状況である。特に若年層の不足は、技能の伝承といった点からも建設産業にとって大きな課題の一つである。

(4) 収益

 被災地の直近のB.S.I値は▲4.0、被災地外は▲14.0となっており、被災地外の収益は大変厳しい状況が伺える。被災地においても、2011年12月調査以降続いていた「増加」傾向が、直近調査では「減少」に転じている。収益減少の理由としては、これまで圧倒的であった「完成工事高の減少」及び「競争激化」の割合が大きく低下し、「資材価格の上昇」、「下請代金の上昇」、「人件費の上昇」という回答割合が高まってきている。

3.まとめ

 未曾有の大災害に見舞われてから2年近くが経過する。被災地では、復旧・復興工事の発注本格化に伴い、被災地外と比べ景況感は大きく改善している。一方で、資材・人手不足は深刻な問題となっている。国は実勢価格を反映した公共工事設計労務単価の設定や建設資材の遠隔地からの調達に伴う設計変更の導入などの予定価格の適正な算定を行うことなどの復旧・復興事業の施工確保対策を打ち出しているが、景況調査被災地版で見てきたように、資材や人手は依然不足し、収益にも影響が出始めているようである。
 被災地の復旧・復興に携わる建設企業が安心して復旧工事を施工できるような環境がこれまでにも増して求められている。
 本調査が、今後も建設業界の動向把握に際して一層活用されることが期待される。 

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【全国版】

北海道建設業信用保証株式会社
http://www2.hokkaido-cs.co.jp/kdc_hkd/toukei/index.html

東日本建設業保証株式会社
http://www.ejcs.co.jp/report/situation.html

西日本建設業保証株式会社
http://www.wjcs.net/keikyo/index.html

【被災地版】

東日本建設業保証株式会社
http://www.ejcs.co.jp/report/disaster.html

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