経済

建設経済の動向

大型補正予算で「復権」する公共事業 7.7兆円の公共事業関係費で国土強靱化を推進

日経コンストラクション編集長 野中 賢

この1月、2012年度の補正予算案と13年度の当初予算案が相次いで閣議決定された。
公共事業による景気対策を推し進める安倍内閣は、合計7.7兆円の公共事業関係費を計上。
自民党が野党時代から提唱してきた「国土強靱化」が、姿を現し始めた。
大型予算で「復権」した公共事業の概要を解説する。

 「従来とは次元の違うレベルで、一体かつ強力に実行する政策パッケージの第一弾だ」。安倍晋三首相は1月11日に閣議決定した「日本経済再生に向けた緊急経済対策」について、このようにぶち上げた。
 約2%の実質GDP(国内総生産)の押し上げや、約60万人の雇用創出といった経済効果を見込む。重点分野として①復興・防災対策(被災地での道路整備、トンネルや橋梁の老朽化対策など)、②成長による富の創出(民間投資の喚起など)、③暮らしの安心・地域活性化(コンパクトシティーの推進など)──を掲げた。

■ 切れ目のない「15カ月予算」

 対策の裏付けとなるのが、1月15日午後の臨時閣議で決定した総額13兆1054億円に上る2012年度補正予算案だ。
 重点分野に沿って「復興・防災対策」に3兆7889億円を、「成長による富の創出」に3兆1373億円を、「暮らしの安心・地域活性化」に3兆1024億円を配分した。緊急経済対策に伴う支出は10兆2815億円に達し、およそ半分を公共事業が占める。
 公共事業は、5.2兆円の国債を追加発行して賄う。
 続いて政府は、1月29日に13年度当初予算案を閣議決定した。12年度補正予算と13年度当初予算を「15カ月予算」と位置づけて、切れ目ない対策で景気浮揚を図る構えだ。これらを合わせると、政府は公共事業関係費に7.7兆円を投じることになる(右図を参照)。

■ 第一弾はインフラの総点検

 予算のキーワードとなるのが、自民党が野党時代から提唱していた「国土強靱化」。多極分散型の国土の形成を理念として、首都直下地震や南海トラフ巨大地震に備えて事前に防災対策を施す考え方だ。
 その第一弾として注目を集めるのが、笹子トンネルの天井板崩落事故を受けたインフラ老朽化対策。国土交通省は2012年度補正予算で、老朽化対策や防災対策に総額1兆8801億円(国費)の6割に当たる1兆1658億円を割き、インフラ総点検や緊急修繕などを進める。
 道路局は、老朽化対策に873億円を計上した。100億円程度を掛けて、直轄国道の情報板や標識、照明のほか、法面や盛り土を総点検する。
 そのほか、風水害対策や防雪、地震対策には合計861億円を投じ、工事を前倒しする。都市間を結ぶ高規格幹線道路の未整備区間には624億円を充てた。
 また、国土交通省は「防災・安全交付金」を創設して自治体を支援する。12年度補正予算で5498億円、13年度当初予算でも1兆460億円を計上している。交付対象は、道路に限らずインフラ全般の老朽化対策や耐震化などの防災対策、通学路の交通安全対策、電線の地中化などだ。
 例えば道路の点検は、既存の社会資本整備総合交付金と同様、補修などの基幹事業と併せて実施する効果促進事業(事業費は全体の2割)の枠組みで行う。「基幹事業の規模が小さく点検費用が確保できない」、「まずは点検だけを実施したい」という自治体のニーズに応えるために、道路局は点検に特化した50億円規模の補助金も独自に創設する。

■ 14年度予算にも強靱化を反映

 国土強靱化の実現に向けて、内閣官房は3月5日、「ナショナル・レジリエンス(防災・減災)懇談会」(座長:藤井聡・京都大学大学院教授)の初会合を開いた。「ナショナル・レジリエンス」とは、自民党が掲げる「国土強靭化」を指す。関連施策の推進に向けて議論を進め、政府が6月に示す「骨太の方針」と、2014年度予算の概算要求に検討結果を反映する考えだ。
 多額の予算措置を歓迎する声が多い一方で、不安材料もある。「予算を執行しきれるのか」という点だ。例えば、東日本大震災の復興では、予算は付いているものの、ヒトやモノの不足で入札の不調・不落や工事の遅れが続いている。国土交通省では入札手続きの簡素化や積算方式の見直しなどで対応を急いでいるが、その効果のほどが注目される。

ページトップ

最新記事

最新記事一覧へ