経済

建設経済の動向

首都高速と新幹線の老朽化対策1兆円近い更新費をどう確保するかが焦点に

日経コンストラクション編集長 野中 賢

高度経済成長期に建設されたインフラが、これから相次いで更新期を迎える。
首都高速道路では、9000億円に上る更新・修繕費用をどう工面するかが焦点となっている。
一方、東海道新幹線では予定していた大規模改修を5年前倒しし、4月から開始する。
今後はコンセッション方式の導入など、民間資金を維持管理に生かす取り組みも求められる。

 老朽化する首都高速道路の大規模更新・修繕には7900億円以上が必要──。首都高速道路会社は1月15日、有識者らによる調査研究委員会(委員長:涌井史郎・東京都市大学教授)で、こんな試算結果を示した。
 首都高は、高度経済成長期に整備されたインフラの代表格の一つ。特に1号羽田線などは老朽化が進んでおり、同委員会は早急に対応策を検討すべきだと指摘した。
 委員会では、累積軸数(供用開始からの使用状況を示す指数)が多く、1973年の設計基準よりも前に設計された都心環状線、1号羽田線、3号渋谷線、4号新宿線、6号向島線、7号小松川線の6路線、約75kmを検討対象とした。そのうち、約16kmの区間で大規模更新が必要であると指摘。また、点検が困難なため、調査・検討を行ったうえで大規模更新を決定する区間として約4km、大規模修繕を実施する区間として約28kmを抽出した。
 費用については、大規模更新が5500億~6850億円、大規模修繕が950億~1050億円と見積もった。他の区間でも、当面の対応として1350億円が必要であるとしている(図1参照)。
 問題は、これらの更新・修繕費用をどう工面するかだ。道路関係公団の民営化で1995年に首都高速道路会社が発足した際、道路建設で積み上がった債務を、料金収入をもとに2050年までに返済する計画を立てた。しかし、その償還計画では大規模更新・修繕を考慮していなかった。

 

■通行量値上げに同意得られるか

 費用を捻出する方法の一つが、料金の値上げだ。1月28日に国土交通省が開いた社会資本整備審議会の作業部会で、同社の菅原秀夫社長は、更新・修繕費用を料金収入だけで賄うには10%程度の値上げが必要だと発言した。
 ただし、値上げによる費用捻出は社会的な同意が得られず、実施は難しいだろうと同社はみている。そのほかの方法としては、税金の投入や償還期間の延長などが考えられる。今後、同社や国交省などが協議して、費用の捻出方法について検討する。
 費用負担の問題が生じる背景には、「道路は無料」という原則がある。首都高の場合も、債務返済後は無料開放することを前提としている。
 だが、実際には「無料開放」のころには道路が老朽化していて、新たに更新や大規模修繕が必要となっている。日常の維持管理にも費用は掛かる。将来にわたって更新や維持管理の費用が必要となることを考えれば、償還期間を単に延長するだけでなく、「道路は無料」の原則を見直す必要が生じるかもしれない。
 2011年11月に施行された改正PFI法によって、コンセッション(国や自治体などが公共施設の所有権を保有したまま、運営権を民間事業者に譲渡する方式)が法的に位置付けられた。現時点では道路はコンセッションの対象となっていないが、インフラの維持管理の財源に民間資金を呼び込むために、道路事業への適用を検討すべきだとする識者は多い。

■技術革新で改修費削減が可能に

 一方、JR東海道新幹線も老朽化対策を迫られている。鉄道の場合、更新や修繕の費用は鉄道事業者自身で用意する必要がある。JR東海では大規模改修を見込んで、既に2002年から費用の一部(引当金)を積み立てている。
 当初の予定では引当金を15年間積み立て、2018年から10年かけて大規模改修を実施する予定だった。
 鋼橋はすべて架け替えることを前提としていたが、延命化などの技術開発が進んだことで、部材を部分的に取り換えるだけで済むようになった。コンクリート橋やトンネルなどの改修技術の開発も進んだ。

 これらの技術開発を受け、同社は1月29日、大規模改修を5年前倒しして13年4月から始めると発表した。改修に掛かる費用は、従来計画の1兆971億円から7308億へと大幅に下がる見込みだ(図2参照)。

 

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