経済

建設経済の動向

設計労務単価15%上昇の影響国交相自ら技能労働者の賃上げを要請

日経コンストラクション編集長 野中 賢

2013年度、公共工事設計労務単価が平均して前年度比15%上昇する。
技能労働者の賃金上昇に結び付けば、デフレ脱却に加え、若手の入職促進も期待できる。
太田昭宏国土交通相は自ら、建設業界団体に賃金引き上げの要請を実施した。
連動して工事価格が上昇すると、元請けの社員にも恩恵がありそうだ。

 国土交通省と農林水産省は3月29日に、2013年度の公共工事設計労務単価を発表。全51職種の全国単純平均で、前年度比15.1%と大幅に上昇させた。技能労働者の賃金を上げることで若手の入職を促すとともに、逼迫する労働需給を適正化するのが狙いだ。賃金が上がれば、「アベノミクス」が目指すデフレ脱却にも結び付く。

法定福利費の反映が上昇に寄与

 設計労務単価を全51職種で単純平均すると、1万8,996円。職種ごとに見ると、普通作業員が前年度比16.7%増の1万4,619円、鉄筋工が同15.4%増の1万7,917円、型枠工が同15.6%増の1万8,194円にそれぞれ上昇した。地域別では、入札不調が続く被災地に手厚くし、例えば宮城県では同21.1%の増となった(右図を参照)。
 全国単純平均で労務単価が大幅に上昇したのは、社会保険の本人負担分など法定福利費を適切に反映したことが一因だ。
 労務単価設定のもととなる技能労働者の実態調査では、これまで調査対象全員が社会保険に加入しているという前提で、社会保険の加入者と未加入者を区分けせずに集計していた。今年度からは、加入の有無を確かめたうえで集計し、法定福利費を含めた労務単価を示した。

労務単価を明記し下請けと契約

 国交省はさらに、設計労務単価が労働者の賃金引き上げに反映されるよう、建設業界団体を通じて建設会社などに要請した。
 目立つのは、太田昭宏国土交通相が自ら積極的に動いている点だ。4月18日、建設業界団体の首脳と会談し、技能労働者の賃金水準の引き上げを要請した。国交相が業界団体首脳に直接、こうした要請をするのは初めてのことだ。
 太田国交相は、「復興事業や若年労働者の入職、技能者の入職・育成といった点で、公共工事設計労務単価を大幅に引き上げたことの意味を理解してほしい」と説明。併せて社会保険への加入の徹底なども求めた。
 国交相からの要請を受けたことなどを踏まえて日本建設業連合会(日建連)は、職人など技能労働者の適切な賃金水準を確保するための対応策を理事会で決定。日建連の中村満義会長は4月25日、労務単価を明記して下請け会社と契約するよう会員企業の社長に要請した。
 下請け会社との契約に当たっては、一次下請け会社と会員企業が職種別の労務単価を明記して契約を締結するよう求めた。併せて、適正な賃金の支払いと社会保険の加入促進について下請け会社を指導するとともに、技能労働者への賃金の支払い状況を調査するよう会員企業に対して要請した。調査した結果は、日建連が取りまとめて公表する考えだ。

元請け従業員の賃金は3%上昇

 下請け会社への対策が出そろった一方、設計労務単価の上昇は、元請けの建設会社で働く人にも恩恵をもたらすのだろうか。
 建設関連のソフトウエア開発・販売を手掛けるワイズ(長野市)は、12年度の積算データをもとに、13年度の工事価格を試算。設計労務単価の上昇によって元請け企業従業員の給与は約3%上昇するとした結果を発表した。
 12年度の設計労務単価で積算した約100件の工事をサンプルとして抽出し、設計労務単価を13年度のものに置き換えた工事価格と比較。その結果、工事価格は平均で約2.96%上昇した。
 現場従業員の給与を含む現場管理費と本社向けの一般管理費は、工事価格の試算結果をもとに分析。これらは直接工事費への率計上で算出されるので、工事価格とほぼ同じ約3%の上昇になる。その上昇分が元請け従業員の給与に反映されれば、約3%のアップになるという結果になった。ただし、前年度比約15%増となった設計労務単価と比べると低めにとどまっている。

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