経済

建設経済の動向

PPP・PFIを推進し12兆円の事業規模にアベノミクスが呼び込む民間資金

日経コンストラクション編集長 野中 賢

政府の成長戦略で、インフラの整備や維持管理に民間資金を積極的に呼び込む方針が示された。
改正PFI法に基づく運営権の導入や、首都高速道路で「空中権」を活用する案などによって、
民間資金を活用したインフラ事業の規模を今後10年間で12兆円に拡大する。
ただし、民間へのインセンティブをいかに確保できるかなど、普及への課題は多い。

 6月に閣議決定された「日本再興戦略」は、金融緩和と財政出動に続くアベノミクスの「第3の矢」として示された成長戦略。民間の力を最大限に発揮させて成長分野に人や金を投入し、日本の産業競争力を国際的に高める。今後10年間、名目GDP(国内総生産)を年平均3%ずつ成長させるのが目標だ。

空中権活用で維持管理費を軽減

 戦略の目玉の一つとして、首都高速道路で、「空中権」を使って大規模改修の費用を賄う案が浮上した。東京・銀座付近の一等地を走る掘割区間に人工地盤で蓋をして「土地」を創出。そこで生み出した容積率を空中権として民間企業に売却する。JR東京駅の復元工事でも活用された手法として注目を集める。
 首都高は、最も古い区間が建設から半世紀を超え、老朽化対策の必要性に直面している。ただし首都高速道路会社が2月に発表した試算では、老朽化区間の大規模更新や修繕には計7900億~9100億円がかかる。その費用の捻出に、空中権の活用案が飛び出したわけだ。
 インフラ整備では、増大する更新需要に対応するため、民間資金を積極的に活用する。空港や上下水道、高速道路などを対象に、施設ごとの特性に応じたPPPやPFIを推進。今後10年間で事業規模を12兆円と、過去10年間の3倍に伸ばす。
 12兆円という目標値は、6月6日に内閣府が公表した「PPP/PFIの抜本改革に向けたアクションプログラム」の中でも示された。今後推し進めるPPPの仕組みを4類型に分け、12兆円の目標額について内訳とその具体例を掲げた(下図を参照)。

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15年度に仙台空港で民間運営

 コンセッションの活用では、空港と道路での検討が先行している。コンセッションは、改正PFI法で制度化されたものの、インフラの管理者は施設ごとの関連法で規定している。空港ならば、管理者は国や自治体、空港会社などに限られ、民間事業者の運営を認めていなかった。
 その問題は、6月19日に成立した「民活空港運営法」で解決。現在は国や自治体が管理している空港の運営を民間事業者に委託できるようになった。
 内閣府のアクションプログラムでは、仙台空港を例にコンセッション導入までのスケジュールを示している。13年度中にコンセッションの枠組みなどを検討し、14年度に運営を委託する民間事業者を公募で選ぶ。15年度半ばには、民間事業者に運営権を売却できる見込みだ。
 道路では、愛知県が道路整備特別措置法による有料道路でコンセッションの導入を検討している。同法によれば、民間事業者は有料道路を運営できない。構造改革特区制度を活用して、その制限の緩和を求めている。愛知県の大村秀章知事が5月28日に事業提案を国交省に提出。サービスエリアやパーキングエリアといった関連施設を含めて、民間事業者に運営権を売却できるようにする仕組みだ。梶山弘志国交副大臣は、愛知県の特区認定について前向きに検討すると回答している。
 ただし、まだ課題も多い。例えば、自治体の職員にとってインセンティブに乏しく、民間資金を活用する案件を抽出するのが難しい。民間企業も、料金収入がある程度見込めるインフラでなければが参画しづらい。
 7月の参院選で自民党が圧勝し、安倍政権は3年間の安定政権となることがほぼ確実になった。地方や小規模なインフラにも民間資金を呼び込む「第4の矢」が期待される。

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