経済

建設経済の動向

落札率の上昇続く自治体の入札都道府県の4分の3で平均落札率が90%以上

日経コンストラクション編集長 野中 賢

都道府県が発注する土木工事で、落札率の上昇が続いている。
2012年度は全ての都道府県で、土木工事の平均落札率が85%を超えた。
ここ数年、低入札対策で調査基準価格が頻繁に引き上げられていることが大きな要因だ。
入札価格の横並びによる「くじ引き落札」も多発。入札から競争性が失われつつある。

図 都道府県の平均落札率の分布

 日経コンストラクションは今年7月、都道府県と政令市、国土交通省の各地方整備局など85の主要発注機関に対してアンケートを実施し、入札に関する最新の動向を調査した。ここ数年、土木工事の入札で、落札率の上昇が続いていることが明らかになった(右図)
 例えば一般競争入札の場合、2007年度は平均落札率が90%以上の自治体は2割に満たなかったが、12年度は3分の2に達した。価格以外の要素も含めて落札者を決定する総合評価落札方式でも構図はほぼ同じだ。指名競争入札などを含めた土木工事全体では、新潟県、富山県、熊本県の3県で、平均落札率が95%を超えていた。

落札率引き上げで地元企業を保護

 落札率が上がっている大きな要因は、最低制限価格や低入札価格調査制度の調査基準価格を、自治体が意識的に引き上げていることだ。
 例えば調査基準価格については、我々の調査に回答した85機関の9割以上が、中央公共工事契約制度運用連絡協議会(中央公契連)の算定式モデルと同等か、それを超える水準に設定していることが分かった。同モデルより高い水準の発注機関は2割に上る。
 中央公契連はここ数年、調査基準価格の算定式モデルを1~2年の間隔で見直してきた。09年度に現場管理費の乗率を60%から70%に見直すとともに、予定価格の3分の2~85%だった設定範囲を70~90%に変更。11年度には現場管理費を80%へと再び引き上げた。
 さらに今年5月、一般管理費の乗率をこれまでの30%から55%に割り増した。国交省はその根拠として、11年度の直轄工事を対象とした調査で、一般管理費が官積算の55%未満の工事で成績評定点が低かったことを挙げる。しかし、工事成績が低いと言っても、品質を許容できないほどの低い点数が大多数を占めたというわけではない。
 引き上げを繰り返したことで、最新の算定式では、調査基準価格が予定価格の9割近い水準に達している。一般的な土木工事を例に、予定価格に対する調査基準価格の割合を試算すると、08年度の83%から13年度には88.5%まで上昇。5年間で5ポイント以上も増えた。
 ここまで来ると、調査基準価格の設定が品質確保という大義から離れ、業界保護の側面が強くなっていると言える。
 地元建設業のために落札率を引き上げようとする動きは、国よりも自治体で顕著だ。工事品質の確保に加え、地元建設会社の経営状況の改善、下請け企業へのしわ寄せ防止などが狙いだ。中央公契連が算定式を引き上げる以前から、調査基準価格や最低制限価格をより高い水準に設定している自治体も少なくない。
 新潟県は、2年前の11年4月に調査基準価格の設定範囲を予定価格の91%以上に引き上げた。中央公契連モデルの設定範囲である70~90%の上限値を超える水準だ。前述したとおり、これが同県の高水準な平均落札率に結び付いている。

くじ引き落札が4割超の県も

 落札率が上昇した一方で、適正な競争環境が阻害されるという問題は残る。その端的な例が高いくじ引き発生率だ。入札価格が最低制限価格付近で横並びになることから、落札できるかどうかが運次第で決まるという状況が続いている。
 都道府県のくじ引き発生率を見ると、12年度は8県で2割を超えていた。10年度と比較すると12年度は17自治体で発生率が低下したが、それより多い21自治体で上昇。大阪府や京都府など大きく減らした自治体はあるが、三重県は10年度と12年度でともに4割を超えた。12年度は佐賀県でも4割を超えている。
 自治体の入札で、くじ引き発生率は一向に減っていない。落札率を高めるために調査基準価格などを引き上げれば、建設会社が競争できる価格帯が狭まり、くじ引きが発生する懸念はさらに高まる。入札の競争性が阻害され、競争入札本来の姿からますます後退していると言えそうだ。

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