経済

建設経済の動向

発注機関が模索する入札の不調・不落対策 効果薄い復興JV、「予定価格超でも契約」の例も

日経コンストラクション編集長 野中 賢

東日本大震災以降、東北地方で深刻になっている人や資材の不足。
それ以外の地域でも公共事業の増加を受け、入札の不調・不落が全国で課題となっている。
被災地で導入された復興JVについては、効果が薄いと感じている建設会社が少なくない。
発注機関は入札制度の簡易化や指名競争入札の復活など、対策に苦慮している。

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 東日本大震災の復興工事が本格化し、東北地方では工事に携わる人や資材の不足が深刻化している。労務費や資材費の高騰、配置予定技術者の不足などから、工事の入札で不調(参加者がゼロまたは規定に足りず不成立)や不落(入札価格が全て予定価格を超過するなどして落札者が決まらない状態)が頻発している。
 日経コンストラクションは今年7月、都道府県と政令市、国土交通省の各地方整備局など85の主要発注機関に対してアンケートを実施し、入札に関する動向を調査した。2012年度の土木工事の入札での不調・不落の発生率を抜き出したのが下表だ。仙台市では半数以上の入札で不調・不落が発生。上位5自治体のうち4つを、東北地方の自治体が占めた。
 これを受け、発注機関は様々な対策を講じているが、建設会社はそれらをどのように評価しているのか。今年4月に会計検査院が調査した。
 岩手県、宮城県、福島県などの建設会社にアンケートを実施した結果によると、「公共工事設計労務単価への実勢価格の反映」「資材の遠隔地からの調達に伴う輸送費や購入費の増額」といった金銭面での対策は、建設会社から比較的高い評価を得た。一方で、復興JV制度についての評価は低く、「効果がある」とした回答が11%、「やや効果がある」を含めても4割強にすぎなかった。復興JV制度を評価しない理由として、よく知らない相手と組んで仕事をすることに対する抵抗感の強さがあることも浮かび上がった。(右図)

宮城県は入札条件を緩和

 そのほか、各発注機関が講じる不調・不落の対策としては、主に入札の条件の緩和や費用面の手当てが挙げられる。
 宮城県では5月に、入札条件の緩和を柱に入札制度を変更。例えば、オープンブック(施工体制事前提出)方式を見直した。入札参加者や落札者は、下請け企業名や下請け金額を事前に提出しなければならず、入札に参加しにくかった。4月までは全ての一般競争入札と一部の指名競争入札に適用していたが、5月以降は予定価格1億円未満の工事で、工事費内訳書のみの提出に変更した。
 不調や不落が起こりにくいとされる指名競争の活用範囲も運用により広げた。予定価格1,000万円以上は原則、一般競争入札を導入しているが、不調や不落だった場合、2回目は指名競争入札に切り替えている。
 9月には、配置予定技術者の制限も緩和。複数の工事の入札に、同じ配置予定技術者を重複して届け出ることを認めるようにした。重複して落札候補者となった場合には、辞退してもペナルティーを科されない。
 岩手県は、復旧・復興工事で作業員宿舎の建設が必要になった場合、その費用を県が全額負担できる仕組みを導入。5億円以上の工事で、県が必要と判断した案件で適用する。
 ダムのような大型工事と異なり、通常の道路や河川の工事では、作業員の宿泊費は積算に含まれない。しかし、復興工事では遠方からの作業員を雇用するために、受注者の負担で作業員宿舎を建設するケースも出ている。その確保が難しいことが入札不調の一因となっているからだ。

思い切った対策の西日本高速

  不調・不落は被災地だけでなく、全国的な課題になっている。思い切った対策を取るのは、入札の不調が相次いでいる西日本高速道路会社だ。10月1日以降に実施する入札の一部で、入札価格が予定価格に相当する額を超えても、妥当性を確認できれば契約する「協議合意方式」を試行する。会計法は、落札価格を予定価格以下とするよう定めているが、高速道路会社は民間企業なので同法は適用されない。西日本高速によると、このような制度を導入するのは高速道路会社で初めてだ。
 従来、入札不調となった場合は発注内容などを見直して再入札するか、見積もり競争を実施するなどしていた。しかし、これらの手続きを踏むと契約までに時間が掛かることから、新制度を導入することにした。
 各発注機関はあの手この手で対策を講じているが、急激な発注増という根本的な問題があるなか、切り札は見つかっていない。受発注者の苦労はしばらくは続きそうだ。

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