経済

建設経済の動向

国が展開する建設業の「担い手確保策」労務単価を7%引き上げ法改正も模索

日経コンストラクション編集長 野中 賢

震災復興や国土強靱化、東京五輪開催決定などで、右肩上がりの様相を見せる公共事業。
しかし、建設業への入職者は減少が続き、担い手確保が大きな課題として持ち上がっている。
厳しい労働環境の改善に向けて、国はさらなる設計労務単価の引き上げを図る。
品確法も改正し、過剰な価格競争による企業の体力消耗を防ぐ考えだ。

 建設産業に携わる人材の減少に歯止めが掛からない。最新の2010年の国勢調査で建設業就業者数は447万人。ピークだった1995年の663万人から3分の2にまで激減した。特に15歳から24歳までの若年層の入職者数が減っている。
 建設経済研究所の推計では、この状況が続くと20年の就業者数はさらに減少(下図)。ピーク時の半分以下の294万人となり、10年比でもさらに3分の2に減る。
 高齢化も進んでいる。復興事業や国土強靭化で公共事業が増えても、担い手不足で事業を消化しきれないという状況が迫りつつある。
 数年前まで、建設投資は毎年減少傾向が続き、ピークだった90年代初頭から半減した。それに合わせて、多くの建設会社は新規採用を抑制し、早期退職者を募るなどして人員をスリム化してきた。いわば、就業者数を意図的に減らしてきたわけだ。
 そこに東日本大震災が発生。その後も国土強靱化や2020年に開催が決まった東京五輪など、公共事業量の押し上げ要因となる出来事が続いた。入職者不足や若手離職者増加の問題が、急激な需給バランスの乱れによって一気に顕在化した格好だ。

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■「労務単価はまだ実態より低い」

 人材不足の背景には、賃金水準の低さをはじめとした建設業界の労働環境の厳しさがある。
 技能労働者の賃金水準の目安となる公共工事設計労務単価は、1999年から2012年までの13年間で27%下落。この間、全産業の男性労働者を平均した年間賃金総支給額は6%の下落にとどまっている。
 そこで、国土交通省や多くの建設関連の団体が中心となって、建設業の「担い手確保」に向けて知恵を絞っている。対策の柱になっているのが労働者の賃金の上昇だ。
 昨年3月には、国交省などが13年度の公共工事設計労務単価を前年度比15%増と、大幅な引き上げを発表した。4月には、太田昭宏国土交通相が建設業界団体の首脳と会談し、技能労働者の賃金水準の引き上げを要請。国交相が業界団体首脳に直接、こうした要請をするのは異例のこととして話題になった。
 ただし、労働者の賃金上昇に対する効果については、十分でない実態もうかがえる。
 技能労働者が所属する全国の企業を対象に国交省が実施した調査によれば、労務単価を引き上げた4月以降に技能労働者の賃金引き上げを実施した企業は全体の35.5%にとどまった(6月末までの状況について尋ねた結果)。また、8月に実施した全国建設業協会の調査では、44%の建設会社が、「設計労務単価は実勢単価よりもまだ低い」と感じていた。
 こうした結果も踏まえ、国交省は今年1月、労務単価のさらなる引き上げを発表。2月から、全職種・全国平均で、7.1%の引き上げが実施される。

■品確法の目的にも「担い手確保」

 担い手確保に向けた施策は、労務単価の引き上げなど直接的なものだけではない。国交省は、「公共工事の品質確保の促進に関する法律」(品確法)の改正を含めた抜本的な施策も計画している。労働環境が厳しくなっている一因に、入札・契約制度の硬直化があるとの認識からだ。
 法案は1月の通常国会に、自民党が議員立法で提出する予定だ。昨年12月には自民党のプロジェクトチームが改正の素案をまとめた。法律の目的に、中長期的な担い手の確保を盛り込んだのがポイントだ。
 法律で多様な入札・契約方式を認めても、発注者によっては適切な方式を選べない可能性がある。同省は発注者向けの入札・契約方式の手引を14年度中に作成する予定だ。

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