経済

建設経済の動向

公共工事の契約をめぐる最近の動き ダンピング防ぎ社会保険加入を促進

日経コンストラクション編集長 野中 賢

建設業の将来の担い手を確保するためには、建設会社の経営安定が不可欠だ。
だが、最近は公共事業量が増加傾向にあるものの、ダンピング受注は無くなっていない。
そのしわ寄せで下請け企業の経営は圧迫。社会保険が“犠牲”になることも珍しくない。
こうした事態を防ぐため、国は法改正など矢継ぎ早に対策を打ち出した。

 将来の担い手不足に悩む建設業。賃金水準が他産業に比べて低いことや、将来性・安定性が不安視されている点が大きな課題だ。若手の入職者を増やし、離職を食い止めるには、建設業の経営を健全化することが欠かせない。
 最近は公共事業量が増加傾向にあり、元請け企業の受注環境は一時期に比べて改善した。しかし、ダンピング受注は無くなっていない。ダンピングの横行で下請け企業にしわ寄せが及び、社会保険への未加入や、技能労働者の処遇低下につながっている例も珍しくない。
 そこで、企業が適正な利益を確保し、労働環境の改善を図ることなどを目的に、国は様々な対策を実施し始めている。

■保険未加入なら直轄工事から排除

 例えば、国土交通省は、社会保険に加入していない建設会社が公共工事を受注できないようにする仕組みの大枠を固めた(下図)。元請けに対して保険未加入の一次下請けとの契約を原則として禁じ、違反した場合には請負代金の減額などの罰則を科す。今年の夏以降に発注する直轄工事から実施する。
 具体的には、発注部局が入札時に元請け企業の保険加入状況を確認。未加入企業は直轄工事の入札から排除する。2015年度以降は未加入企業を競争参加資格申請者名簿に登載させないことも検討する。
 さらに工事発注後、発注部局は元請けが作成する施工体制台帳などをもとに全下請けの保険加入状況を確認。未加入企業に対して建設業担当部局に通報し、同部局が加入指導を行う。確認や指導の対象は、元請けが施工体制台帳の作成義務を負う下請け契約額3,000万円以上の工事を想定している。
 また、原則禁止とする保険未加入の一次下請けとの契約が判明した場合には罰則を科す。現時点では、罰則として一次下請けとの契約額の10%を請負代金から減額するなどの措置を検討している。
 厳しい措置を取らざるを得ないのは、言うまでもなく社会保険未加入企業が相変わらず多いからだ。
 この制度の創設に先立って12年11月から、社会保険への加入を指導しているにもかかわらず従わない建設会社を、国土交通省や都道府県が厚生労働省に通報する制度が始まっている。開始からわずか10カ月後の13年8月末時点で、通報件数は1,000件を超えた。
 通報制度の仕組みは以下のとおりだ。国土交通省や都道府県の建設業許可部局が、建設業許可や経営事項審査(経審)を申請した建設会社の保険加入状況を確認し、未加入の企業に対して加入するよう指導。対象企業が2回にわたる指導に従わずに未加入を続けた場合には、厚生労働省の保険担当部局に通報する。厚生労働省が未加入企業に対して再び加入指導を3回ほど実施し、それでも従わない場合には強制的な加入手続きに入るというものだ。

社会保険未加入企業の排除スキーム

■ダンピング防止へ入契法を改正

 他方、ダンピングそのものを防ぐための措置も講じる。政府は今年3月7日、ダンピング防止条項を追加する入札契約適正化法(公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律)の改正案などを閣議決定した。開会中の通常国会に提出する予定だ。
 入札契約適正化法改正案の3条に、「その請負代金の額によっては公共工事の適正な施工が通常見込まれない契約の締結が防止されること」とする条文を追加。また、入札に参加する建設会社に入札金額の内訳書の提出を義務付け、それを発注者が適切に確認することも盛り込んだ。
 政府はこのほか、建設業法改正案も閣議決定。建設会社の努力義務を定めている25条の27の1項で、既存の「施工技術の確保」と並び、「建設工事の担い手の育成及び確保」を新たに対象とする。

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