経済

建設経済の動向

外国人技能労働者の受け入れ拡大 人手不足解消を視野に実習期間を延長

日経コンストラクション編集長 野中 賢

技能労働者不足に拍車が掛かるなか、外国人労働者活用の議論が盛り上がっている。
政府は4月、外国人技能実習制度を利用した時限措置を発表。
3年間の技能実習を修了した外国人労働者に、追加の就労を認める内容だ。
期待の声が上がる半面、様々な課題も指摘されている。

 本欄でもたびたび取り上げているとおり、建設業の技能労働者不足が深刻度を増している。若手の入職者不足や離職者の増加といった問題の解決に向けて、国や建設関連団体が対策を打ち出しているが、根本的な解決には時間がかかる。
 むしろ、いま多くの関係者が懸念しているのは至近の課題への対応だ。震災復興の本格化に加え、2020年の東京五輪に向けて建設事業の急増が見込まれる。将来を見据えた労働者の確保とは別に、目先の数年の需要増に向けて、即効性のある対策も必須だ。

■技能実習生は年々増加傾向

 こうした背景から、外国人技能労働者活用に関する議論がにわかに盛んになってきた。
 日本では既に、外国人の技能労働者を受け入れて研修を行う「外国人技能実習制度」が定着している。国際研修協力機構(JITCO)の統計によれば、2013年度の建設関係の技能実習生は4,865人(13年4月~14年2月を累積した速報値。入国2~3年目の在留資格「技能実習2号」への移行申請者数)。ここ数年、増え続けている状況だ。
 2010年7月から運用されている現行の制度では、日本国内での実習期間は最長3年間と定められている。そこで、この制度を変更し、期間を延長して受け入れ人数を増やすことで、短期的な労働者不足の解消を図ろうというわけだ。

■最長で通算6年の実習が可能に

 国土交通大臣など関係閣僚らは今年1月から協議を開始。政府は4月4日、既存の外国人技能実習制度を利用した、建設業だけを対象とする時限措置をまとめた。現行の制度で最大3年間となっている実習期間を延長し、継続して雇用できるように変更する。
 具体的には、3年間の実習を修了した外国人労働者に、「特定活動」として追加で就労を認める。特定活動の期間は、実習修了後に継続して働く場合は2年以内、修了後に帰国して1年以上たってから再来日した外国人については3年以内とする。つまり最長で通算6年間、日本国内で就労できることになる(下図)
 政府は緊急措置の中に、外国人活用でのコンプライアンス(法令順守)を強化する施策を盛り込んだ。技能実習の受け入れ企業や、受け入れ企業を指導する事業協同組合などの監理団体に「優良」と認定されることを求める。過去5年間に法に触れる不正行為や処分歴がないことなどを、「優良」認定の条件とする。
 この時限措置の適用は、2015年度から20年度まで。国土交通省土地・建設産業局建設市場整備課が中心となって、今夏までに詳細な実施要項を発表する予定だ。

技能実習制度の概要

■「本来の目的」が置き去りに?

 実習期間の延長で、従来に比べて実習生一人ひとりには、より高度な技能が蓄積されることが期待できる。国内の工事での「戦力」という視点に立っても、経験のない人が短期間で入れ替わるより、経験を積んだ人を長期間、雇用できる方がメリットは大きい。
 とはいえ、新制度を歓迎する声ばかりではない。そもそも技能実習制度は従来から、「本音」と「建前」のはざまにあった。目的はあくまでも発展途上国への技術移転だが、人材確保の手段と捉える向きも少なくなかった。この時限措置によって、本来の目的が置き去りになることへの懸念の声がある。さらに、受け入れの拡大によって、実習生の質の低下や、実習生の待遇に目が届かなくなるといった恐れもある。
 既に人口減少が始まっている日本では今後、外国人労働者についてのさらなる議論が必要となる。今回は時限措置だが、他産業も含めた今後の外国人労働者の問題についての試金石になるかもしれない。

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