経済

建設経済の動向

若手技術者・女性技術者の登用策 総合評価や経審の加点で育成を促す

日経コンストラクション編集長 野中 賢

建設業の担い手として注目を集めているのが、若手と女性だ。
国土交通省は、現場での若手技術者の登用を促すため、総合評価や経審で優遇措置を取る。
女性技術者・技能者を5年以内に倍増させる目標も定め、取り組みの一環として、女性技術者の配置を要件とする入札の試行も始めた。

 危機感が高まっている建設業の人材不足。中長期的な問題解決に向けて注目が集まっているのが「若手」と「女性」だ。1997年に24万人いた24歳以下の入職者が、2012年には約3分の1に減少した。女性に関しては、技術者・技能者を合わせて10万人と、全体に占める割合はわずか3%にすぎない。
 若手と女性はこれまで数が少なかっただけに、「伸びしろ」があるとも言える。国土交通省などは、こうした人材を増やし、育成を図るために、様々な方策を講じ始めている。

■自治体でも入札時に若手優遇

 取り組みが先行しているのは若手登用策だ。国土交通省では全地方整備局で、総合評価の際に若手を優遇する制度を導入(下図)。日経コンストラクションが昨年秋に自治体を対象に調査したところ、47都道府県のうち16道県、20政令市のうち3市で、若手優遇策を取り入れていた。
 総合評価落札方式が広まった影響で、若手の登用が難しくなったことが背景にある。配置予定技術者の実績が評価の対象になるので、建設会社は実績が豊富なベテラン技術者を配置したがる。若手には監理技術者になるチャンスがなかなか巡ってこず、いつまでたっても経験を積めないという悪循環が指摘されていた。
 優遇策のパターンはいくつかある。「若手を現場代理人に配置すれば加点し、技術者評価は監理(主任)技術者の実績を対象にする」、「技術者評価の際、監理(主任)技術者としてではない実績も対象にする」といった方法だ。後者の場合、担当技術者としての実績も評価の対象になるので、担当技術者の経験しかない若手を配置しやすくなるわけだ。自治体の中には、若手を雇用した企業に対して加点するところもある。
 経営事項審査(経審)でも、若手を雇用する企業への優遇が始まる。国土交通省は9月10日の中央建設業審議会総会で経審の改正案を公表した。経審申請時の名簿に記載された「技術職員」(主任技術者以上に相当)のうち、34歳以下の占める割合が15%以上の企業に加点する方針。前年の審査時と比較して、新たに名簿に記載された34歳以下の技術職員が、技術職員全体の1%以上の場合も加点する意向だ。


表 若手技術者の配置を促す国の取り組み例


■「子育て支援」工事を試行

 一方、にわかに機運が高まってきたのが、女性の積極的な登用だ。国土交通省は4月、建設業の女性技術者・技能者を5年以内に倍増させる目標を掲げ、8月には建設業5団体とともに、「もっと女性が活躍できる建設業行動計画」を策定している。
 入札でも新たな試行を始めた。第1弾となった東北地方整備局の「東根地区上部工工事」(6月9日公告)では、女性技術者を現場に配置することを入札要件とした。また、九州地方整備局の「鹿児島3号土地ヶ谷地区防護柵設置工事」(8月5日公告)では、配置予定技術者を女性に限定し、配置できない場合は現場代理人または担当技術者に女性技術者を配置することを要件とした。国土交通省ではこうした入札を、今年度中に10件程度、試行する考えだ。
 中部地方整備局では「子育てしやすい職場環境対応工事」を、7月以降に公告した工事で試行している。元請けの技術者が家事や育児で現場を離れる場合に、仕事を引き継ぐ別の技術者を「現場補助員」として配置できるようにする。さらに、子育て支援に必要な施設や設備について、協議のうえで実費を計上できるようにする。子育てをする人が働きやすいよう、勤務時間や現場施設に配慮する内容だ。
 こうした様々な方策で、国も自治体も若手や女性の活用に向けて取り組んでいる。ただし、これらは建設会社にとって、若手や女性を雇用し、育てるための動機付けにはなるが、彼ら(彼女ら)が入職する動機付けにはならないだろう。若手や女性に、いかにして建設業の門をたたいてもらうか。その対策と両輪で進めていくことが欠かせない。

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