経済

建設経済の動向

建設業の海外展開|海外工事受注が過去最高の1.8兆円に

日経コンストラクション編集長 野中 賢

近年の国内建設投資の持ち直しで、業績回復が著しい建設業。
一方の海外事業も好調で、東南アジアでの地下鉄建設など大型案件の受注が相次ぐ。
2014年度の主要建設会社の海外工事受注は1兆8,000億円に上り、
リーマン・ショック前の水準を超えて過去最高を記録した。

 5月20日、海外建設協会は会員企業49社の2014年度の海外建設工事の受注実績を発表した。1件当たり1,000万円以上の案件について集計したところ、2014年度の受注は1兆8,153億円に上り、過去最高額を記録した。近年の建設投資の持ち直しで、建設各社は国内工事における収益の改善傾向が顕著だが、海外工事の業績も好調だ。
 地域別では、アジアが前年度比8.8%増の1兆2,296億円で不動のトップだったほか、2位の北米(4,500億円)の伸びが61.8%増と大きかった。一方、2000年代後半には北米を超えたこともあった中東は、2014年度には前年度より88.7%減ってわずか86億円、アフリカは76.1%の減少で78億円だった。

リーマン・ショック後は7,000億円割り込む

図 海外建設受注実績の推移(地域別)


海外建設協会が会員企業を対象に実施した調査結果。調査対象は、1件当たり1000万円以上の工事(資料:海外建設協会)

 海外受注実績の過去10年間の推移を右図に示した。図にはないが、受注は2002年度(7,584億円)から5年連続で増加しており、2007年度には1兆6,813億円に達し、当時としては過去最高を記録した。アジアでの受注が堅調に伸びたのに加え、中東での受注額が大幅に増加したためだ。
 しかしその後、2008年9月のリーマン・ショックに端を発した世界経済の急激な冷え込みの影響で、中東からの受注は激減。2009年度の海外受注額は6,969億円と、わずか2年間で6割減と一気に落ち込んだ。7,000億円を割り込んだのは、1980年度以来29年ぶりの事態だった。
 中東からの受注はその後も回復していないが、前述のとおりアジアや北米からの受注が順調に伸びたことで、2014年度の過去最高の受注に結び付いた。

中国・韓国勢との競争がますます激化

 では、2014年度の受注の内訳について、少し細かく見ていこう。
 国・地域別の受注額を見ると、トップ3の顔ぶれは2013年度と同じで、1位がシンガポール(前年度比7%増の4,996億円)、2位が米国(同58.7%増の4,279億円)、3位がタイ(同20%減の1,395億円)。4位には2013年度に6位だったマレーシア(同73.6%増の1,054億円)が浮上した。
 また、分野別に見ると、建築が1兆3,767億円で前年度比21.6%増、土木が4,386億円で同6.8%減。発注者別では、公共機関の案件が6,032億円で同5.8%増、民間案件が1兆2,121億円で同17.4%増だった。
 東南アジアでは近年、地下鉄建設の機運が盛り上がり、日本の建設会社による工事の受注が急増している。ベトナムのホーチミン市やインドネシアのジャカルタ市では、円借款による地下鉄工事を大手建設会社のJV(共同企業体)が相次いで受注している。シンガポールでは、2014年6月に起工した地下鉄トムソン線の工事に多くの日本企業が携わる。五洋建設が3工区を合計約857億円で受注したほか、清水建設、大成建設、佐藤工業、西松建設なども、150億~300億円規模の工事を受注している。
 ただし、トムソン線の工事では、日本や地元シンガポールの企業以外に、中国勢や韓国勢の積極的な受注が目に付く。コスト面での太刀打ちが難しいなか、日本企業の高い技術力を生かせる案件をいかに受注できるかが、今後の海外事業の成否を決めることになる。

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