経済

建設経済の動向

広がる包括民間委託|地域建設会社が担う維持管理業務

日経コンストラクション編集長 野中 賢

 インフラや公共施設の老朽化が進むなか、管理者の多くは技術職員不足にあえいでいる。
 そこで最近、インフラの維持管理を民間に委託する例が増えてきた。
 一定のエリアにある道路の点検や簡易な修繕を、建設会社に一括して任せる自治体も出始め、地域の建設会社にとって新たなビジネスチャンスが広がりつつある。

図 地域維持事業における包括発注の導入状況


導入予定には検討中も含む。国土交通省、総務省、財務省が2015年3月に公表した「入札契約適正化法に基づく実施状況調査の結果」をもとに作成

 インフラや公共施設の維持管理には大きな課題がある。一つが、老朽化の加速度的な進展だ。国土交通白書によれば、建設後50年が経過する長さ2m以上の道路橋は2013年時点で18%。それが2023年には43%、2033年には67%と急増する。ただし、これは建設年代が分かっている40万橋を対象とした集計だ。実はこれ以外に、建設年代が分かっていない橋が30万橋もあり、満足に管理されていない橋も少なくない。
 もう一つが人の不足で、特に町村など小規模な自治体で深刻だ。国土交通省の2012年7月の調査では、町の46%、村の70%で、橋梁保全業務に携わる土木技術者数が「ゼロ」であると回答している。
 こうした背景から最近、自治体などの施設管理者が担ってきた維持管理や軽微な補修といった仕事を、民間事業者に任せようという機運が高まってきた。
 採用が広がっているのが、包括民間委託だ。資金調達の責任を自治体などに残したまま、施設の維持管理や簡易な補修といった業務をまとめて民間事業者に委託する。性能発注と複数年契約を組み合わせることで、細かい工事を小分けにして発注せずに済むので、管理者にとっては発注事務の軽減を図れる。民間企業にとっては新たな市場が生まれるメリットがある。
 国土交通省が推進している「地域維持型契約方式」もその一つ。2011年8月に改正された入札契約適正化指針により、維持管理や除雪、災害対応といった地域維持事業の担い手確保が困難となる恐れがある場合には、地域JVの活用を含む包括発注(地域維持型契約方式)を活用することとされた。
 2012年度から、全国に先駆けて青森県が導入し、その後は都道府県を中心に、地域維持事業に包括民間委託を採用する例が増え始めた(右図)。複数年契約の方が受発注者双方のメリットが出やすいことから、契約期間を2~3年とする事例も出てきた。

自社の強みが生き、経営安定化も図りやすい

 地域維持事業に限らず、自治体が包括民間委託を導入するケースは増えている。
 東京都府中市は、市内中心部の道路施設について、14年度から16年度にかけて維持管理を民間事業者に委ねる取り組みを開始した。道路巡回や街路樹のせん定、損傷箇所の補修、事故や災害、苦情が生じた際の対応などを任せる。契約金額は約1億2,500万円。包括民間委託の開始以降、市やJVに寄せられたクレームは、市が道路を維持管理していた頃に比べて大幅に減ったという。
 岐阜県は、長さ2m以上15m未満の小規模橋梁の点検から補修までを地域の建設会社に任せる方式を導入。数十橋をまとめて点検と診断を行い、診断結果に応じた補修計画の提案と補修工事を実施する。金額は1,000万~2,000万円程度で、期間は1年以内だ。業務の質を担保するため、元請け、または一次下請け会社に所属する「社会基盤メンテナンスエキスパート(ME)」と呼ぶ技術者が点検や補修工法の提案をしなければならない点が特徴。MEは岐阜大学が中心に養成する維持管理の専門技術者だ。アンケート調査の結果では、小規模な修繕工事などに迅速に対応できる点を、受発注者ともに評価していた。
 こうした包括民間委託業務は、地域の建設会社にとって利点が大きい。地域の実情に精通し、小回りの利く会社が向いていることから、自社の強みを生かすことができる。また、除雪や災害対応は日常的に発生するわけではない一方、維持管理は年間を通じて仕事がある。金額としてはさほど大きくないものの、受注によって経営の安定化を図りやすくなる。

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