経済

建設経済の動向

増益が続く建設会社|3年連続で収支改善傾向も「踊り場」懸念

日経コンストラクション編集長 野中 賢

2012年度以降、主要建設会社の完成工事総利益率が増加に転じている。
なかでも建築は、東日本大震災前後に受注した採算の厳しい工事が片付き、収益改善が目立つ。
16年3月期の中間決算を見ても、増益傾向は続く見通しだ。
ただし、建設投資の見通しにやや陰りが見え始め、今後は「踊り場」に差し掛かる懸念もある。

 

図 日本建設業連合会加盟会社の完成工事総利益率の分布


日本建設業連合会の「日建連法人会員決算状況調査」をもとに作成。加盟社数は2010~2012年度は114社、2013~2014年度は113社

 ここ数年で、増益体質へと改善されつつある建設業界。2015年3月期の決算で過去最高益を達成する会社が続出するなど、全般的に業績は好調だ。
 日本建設業連合会の会員会社の完成工事総利益率も増加が続いている。完成工事総利益率が10%を超える会社は2年連続で増え、14年度は全体の20%を超えた(右図)。
 ここ数年、工事の発注量は増加基調にあり、競争性が緩和されてきた。国土交通省発注工事の平均落札率は4年連続で上昇し、14年度は平均92.4%と極めて高い水準にある。「たたき合い」からの脱却が、建設会社に利益をもたらしている。
 東日本大震災前後に受注した採算の厳しい工事が片付いてきた影響も大きい。12年度以前は受注環境が厳しく、建築を中心に採算性の悪い案件が少なくなかったが、こうした工事が終わり、国内の建築で採算が改善してきた。土木工事は建築と比べて工期の長いものが多く、不採算な手持ち工事を抱えている会社もあるが、これらも徐々に完工を迎えつつあり、土木でも採算性向上が見えてきた。
 採算性向上の流れは15年度も続いているようだ。昨秋に発表された各社の16年3月期中間決算を見ると、主要建設会社のほとんどで、完成工事総利益率が前年同期を上回った。

労務費の高騰も懸念材料に

 20年の東京五輪に向けて、都心部の大型プロジェクトがしばらくは継続することもあり、今後の建設業を取り巻く環境を悲観視する建設会社は今のところ少ないようだ。だが、懸念材料もある。
 その一つが、一時に比べて落ち着いた動きを見せている労務費だ。五輪施設の着工などによる工事量の増加は、技能労働者の需要増に直結する。このため、多くの建設会社は現在の落ち着いた状態は一時的なもので、これから再び上昇基調が強まっていくとみている。特に、首都圏では大型工事が数多く控えており、労務需給は今春以降、逼迫してくることが予想される。
 もう一つ、今後の建設投資の動向も注視しておく必要がある。昨年11月号の本欄で取り上げたように、国土交通省が昨年10月に発表した建設投資の見通しによれば、15年度の建設投資は全体で前年度比5.5%減の48兆4,600億円と、5年ぶりに減少。12年度以来、3年ぶりに50兆円を割り込む見通しだ。政府が昨年末に閣議決定した16年度予算案では、公共事業費としてほぼ前年度並みの5兆9,737億円を確保したものの、近い将来、景気の「踊り場」を迎えることも懸念される。
 工事の発注量が増えてきたことから、各社は工事の採算性を重視した選別受注を進めているが、発注量が減れば再びたたき合いに陥る危険がある。業績が好調な間に、生産性の向上をさらに進めるなど、「増益体質」を盤石なものとしておく必要があるだろう。

ページトップ

最新記事

最新記事一覧へ