経済

建設経済の動向

技能労働者の賃金水準|「引き上げ」は7割、恩恵少ない下請け

日経コンストラクション編集長 野中 賢

発注量の増加や工事の利益率改善で、多くの建設会社が好業績を挙げている。
それに伴い、技能労働者の賃金水準も上昇傾向にある。
国土交通省の調査結果によれば、2015年度は全体の7割の会社が賃金水準を引き上げた。
ただし、下請け会社の階層が下がるほど恩恵が少ないという実態も、改めて明らかになった。

 

図 技能労働者の賃金水準引き上げ状況


国土交通省の「平成27年度下請取引等実態調査の結果について」をもとに作成。調査は2015年7月~9月に実施。回答業者数は1万1,953者、集計対象業者数は1万1,761者。選択肢は、いずれも「予定」を含む。年度は調査年度で、前年7月~当年6月の賃金が対象

 国土交通省は毎年、全国の建設会社を対象に、「下請取引等実態調査」を実施している。元請け・下請け間の取引の実態や社会保険の加入状況、賃金支払い状況などを明らかにするのが目的だ。
 発注量の増加や利益率改善で建設各社の業績が好調な昨今、それが技能労働者の賃金に反映されているのか――。今年1月に発表された2015年度の同調査の結果をもとに見ていこう。
 1万1,761社からの回答を集計した結果、2014年7月以降に技能労働者の賃金水準を引き上げた(予定を含む、以下同じ)と回答した会社は、全体の68.6%に上った(右図)。前年の調査と比較すると7.4ポイントの上昇だ。
 引き上げた理由として最も多かったのは、「周りの実勢価格が上がり、引き上げなければ必要な労働者が確保できない」(43.6%)。さらに、「若者の入職促進など業界全体の発展に必要」(33.4%)、「受注量が増えるなど業績が好調で、以前よりも賃金に回せる資金を確保できる」(31.6%)が続いた(複数回答、選択肢は一部簡略化)。
 人手を確保するために賃金水準を上げざるを得ないという建設会社が多い一方で、好調な業績を受けて、積極的に賃金水準を高めようと考える前向きな会社も多いことが読み取れる。

3次下請け以降では「引き上げ」が半数以下

 ただし、賃金上昇の傾向は、企業の属性による差が大きいようだ。
 調査結果を元請け・下請け別に見ていくと、元請け会社で「引き上げた」と回答したのは70.2%。これは、14年度調査に比べて10ポイント近い上昇で、13年度調査からは約19ポイント伸びている。好業績が賃金水準の上昇に直結しているわけだ。
 ところが、下請け会社では様相が異なる。引き上げたのは1次下請けで62.5%、2次下請けで53.5%と、元請けに比べて低い水準にとどまる。さらに、3次下請け以降は43.8%と半数に満たなかった。同じ下請け会社でも、下請けの階層が下位に行くほど、賃金引き上げの動きは鈍くなっている。
 調査では、賃金水準を引き上げなかった理由についても尋ねている。全体として、請負金額の低さや経営の先行き不安といった理由が上位を占めた。企業の属性別に見ると、元請け会社では「請負金額が低く賃金引き上げ費用を捻出できない」(49.9%)がトップだった一方、3次下請け以降では「経営先行きが不透明で引き上げに踏み切れない」(53.7%)が最も多かった(複数回答、選択肢は一部簡略化)。一口に「建設業は好業績」と言っても、会社の規模などによって温度差がある状況がうかがえる。
 また、下請け会社では「受注者の立場で発注者や元請けに賃金引き上げを求めづらい」と回答した割合も比較的高く、下請けの階層が下位に進むほど、回答した会社の割合が多かった。

ページトップ

最新記事

最新記事一覧へ