経済

建設経済の動向

自治体の「歩切り撤廃」の進捗|歩切り全廃へ、「端数処理」が今後の焦点に

日経コンストラクション編集長 野中 賢

2014年の「担い手三法」改正によって、「歩切り」の禁止が明記された。
昨年1月時点で、全国の42%の自治体が歩切りを実施していたが、その後は徐々に減少。
「見直す予定はない」としていた自治体も方針を転換し、全廃の見通しが立った。
今後は、端数処理による設計金額の減額について、対応を検討していく。

 

 ちょうど1年前、昨年6月号の本欄で、自治体の歩切りに関する話題を取り上げた。2014年の「担い手三法」改正で、発注者が設計書の金額よりも減額して予定価格とする「歩切り」が明確に禁止された。それを受けて国土交通省と総務省が共同で実施した調査によると、昨年1月時点で「歩切りを実施することがある」と回答した自治体が、全国1,788自治体のうち757カ所、全体の42%に上った――という内容だ。
 このように、1年余り前は半数近くの自治体が実施していた歩切りだが、今年度に入り、条件付きながらも「全廃」される見通しとなった。

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「対応未定」の3自治体が見直しの意向

図 全国1,788自治体の歩切り実施状況の推移


国土交通省の資料をもとに作成。図中の数値は自治体数。*は「予定」を含み、自治体数は国土交通省の推計。2015年1月は、歩切りを行っている理由を回答していない1自治体を除いた状況

 以前の本欄で説明したとおり、歩切りの理由は二つに大別できる。一つが端数処理。事務の効率化のために設計金額の端数を切り捨てて予定価格とする場合や、予定価格の漏洩を防ぐために設計金額に無作為で発生させた係数を乗じて調整するなどの方法だ。もう一つが「慣例、自治体財政の健全化などのため」。公共事業費を削減したり、追加工事に備えて予算の一部を留保したりといった目的による減額だ。国土交通省は、端数処理に伴う減額については「やむを得ない場合がある」として、違法な歩切りとまでは見なしていない。
 昨年1月時点で歩切りを実施していた757自治体のうち、慣例や財政健全化を目的としていたのが459自治体。まずは、これらの歩切りの解消が大きな課題だった。国土交通省では歩切りをしている自治体に撤廃を働きかけるなどした結果、多くの自治体が方針の見直しを表明。昨年11月までに、三つの自治体以外は撤廃の考えを示した。
 見直しの予定はないとしていたのは、関東の1市1村と中部の1町。国土交通省は今年2月、土地・建設産業局建設業課の担当官が各自治体の首長を訪問して、見直しを改めて要請した。その結果、一つの自治体は直ちに見直すと回答。もう一つの自治体は見直しの対象外となっている端数処理に変更する旨を示した。残る一つの自治体は、時期を明確にしなかったものの見直す意向を示した。
 端数処理による歩切りは残るものの、国土交通省が問題視していた慣例や財政健全化のための歩切りは、全廃される見通しが立ったわけだ(右図)。

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「1%以上切り捨てる端数処理」は不適切

 国土交通省が次に考えているのが、端数処理への対処だ。前述のとおり、同省ではある程度の端数処理についてはやむを得ないとしているものの、端数処理の基準はなく、どの程度の切り捨てを行っているかは自治体によって異なる。なかには数パーセントの金額を切り捨てている自治体もあるとみられ、積み上げればかなりの金額になることも予想される。
 そこで、今年度は各地区のブロック監理課長等会議で、端数処理の在り方についても話し合う。国土交通省は昨年秋の同会議で、1%以上を切り捨てる端数処理は不適切との考えを示している。
 昨年7月時点で、都道府県内の自治体全てで設計書金額と予定価格が同額(端数処理もしていない)なのは、栃木、石川、奈良、香川、愛媛、大分、宮崎の7県にとどまる。今年度は歩切りの「条件付き全廃」から「完全撤廃」に向け、取り組みが進んでいく。

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