基金の活動

第18回建設業経営者研修のご案内

若年者の確保・人材育成をテーマに「第18回建設業経営者研修」を開催

(一財)建設業振興基金 構造改善センター

 当基金は2月10日に東京都中央区の浜離宮建設プラザにおいて、建設業経営者、後継者、経営幹部を対象とする「建設業経営者研修」を開催しました。全国各地から例年を大きく上回る60名にご参加いただき、18回目となる今回は、「若い力が会社を変える、活力ある組織と経営のあり方を探る」と題し、建設産業において喫緊の重要課題である若年者の確保・人材育成をテーマに講演とパネルディスカッションを行いました。

 

 

パネルディスカッション「若者が夢を託せる産業へ」

パネルディスカッション

<パネリスト>
太田 肇 氏
同志社大学 政策学部 教授

永井 康貴 氏
永井建設株式会社 代表取締役

福井 正人 氏
福井建設株式会社 代表取締役社長、職業訓練法人広島建設アカデミー 理事長

豊田 善敬氏
公益社団法人全国工業高等学校長協会 理事長 東京都立蔵前工業高等学校 校長

坂川 博志氏
日刊建設工業新聞社 取締役編集担当

<コーディネーター>
一般財団法人 建設業振興基金 理事長 内田 俊一

パネルディスカッション資料

 

 

内田理事長

■内田理事長:
 先ほど3人の方々にご講演をいただきました。太田先生からは、社員のモチベーションを高める取り組みについてお話があり、組織のコミュニケーションの改善や褒めること、そして外に目を向けさせる機会を増やすことの重要性についてご指摘頂きました。とても実践的なお話しだったと思います。永井さんからは、まさに太田先生がおっしゃったことをそのまま実践していたのではないかという取り組みをご紹介頂きました。社員相互、そして社長と社員のコミュニケーションの機会を設けるところから始め、そこから状況が開けていったということ、そして、この取り組みを進める上で社長に本気の覚悟を迫られたというお話がありました。最後に、辛いことが多いけれども自分の子供にも社長を経験させてやりたいと考えるようになったと、これがもしかしたら取り組みの最大の成果だったんじゃないかと思います。それから最後に、福井さん。これは具体的な教育訓練の実践で、卵をふ化させるその準備をきちんとやって、後はふ化してどんどん成長させていく、取り組みのご紹介です。地域の専門工事業の協力による自主的な取り組みだという事、厚労省の補助金の活用等知恵がいっぱい詰まっている事、そして定着率等現実に効果を挙げている事などなど素晴らしい取り組みだと思いました。

○一人前になる道筋を見つけられていない若者たち

■内田理事長:
 このパネルディスカッションでは、若者についての意識・イメージを少し最初に共有をして、その上でできることを考えていきたいと思います。お配りした『若者の就業の現状、若者の意識』というペーパーを簡単にご紹介したいと思います。
 まず「若者の就業の現状」についてですが、平成22年3月で高等学校では進学者を除いて学校から社会に出た若者は35万人いますが、一部は中途退学であり、一部は卒業しても就職が決まっていない、就職しても3年以内に辞めてしまった人もおり、これらを全部合わせると24万人くらいです。35万人のうち、もしかしたら最大限68%が、安定した職に就けていないのではないかという数字です。大学・専門学校では、77万6千人が学校から社会に出て、その半分の52%が安定した仕事を持てていないのではないかという大変厳しい数字が出ています。平均すると日本の若者の6割近くが、学校から社会に出た後、社会との接続がうまくいっていない、自分の生活の基盤を持てていないのではないかという厳しい現状があります。
 その一方で、20代男性の意識で「生活への満足・不安」の推移を見ると、将来に不安を持つ20代の若者は年々増えています。ところが不思議なことに今の生活への満足度もどんどん上がっているのです。これはおそらく、とりあえずこんなもんかなあという諦めなのではないかと思います。人間は未来を見なくなると現状に満足するという社会学者もいます。この「満足」という数字は、若者たちが自分の未来に希望を持てなくなっているということの裏返しではないでしょうか。建設業界に若者たちを取り戻そうとするのであれば、まずは、彼らの不安をしっかり受け止めるという決心や覚悟ができるかだと思います。
 それから「若者の職業観」です。15歳~25歳の若者たちのデータで、半分は高校生や大学生、残り半分が働いている子たちです。「職業観」で最初に挙げるのが「やりがい」で56%。「やりたい仕事が収入や地位と合わない」といった非常に理想をかかげた答えも出ています。
 「職場に求めるもの」の項目で圧倒的に多かったのは「人間関係が良い職場」。71%もあります。今の若者たちは常にどこかとつながっていないと不安なのではないでしょうか。
 1枚めくっていただきますと「日本、アメリカ、韓国」の若者の職業観を比較したものです。日本の若者がアメリカや韓国の若者よりも重視しているのは、「仕事の内容が面白い」、「やりがいがある」、「自分に合っている」、「職場の人間関係」、「自分を活かすこと」。一方でアメリカや韓国の若者が一番重視したものは「収入」。アメリカでは9割です。それから「将来性」、「安定性」。よく言えば、日本の若者は理想を追いかけていて、少し厳しく言えば仕事に対してのリアリティが薄い。それに対してアメリカや韓国の若者はストレートに「仕事は食べるためのものだ」と考えているのではないかと思います。
 もう一度「若者の職業観」に戻って見ていただくと「したいことがなければ就職はしなくてもいい」と答えた若者が実に2割もいます。「卒業後は親から経済的に自立すべき」いたっては37%しかいません。ここにも仕事についてのリアリティの薄さが伺えます。
 「職場への不満」の項目ですが、ここでは賃金が良くない、労働時間が長いが1、2位です。加えて仕事の内容が自分に合わない等「理想と現実の違い」にとまどっているのが浮かび上がっています。このとまどいは、昔から常につきまとうものですが、おそらく昔の若者は先輩たちの背中を見て「いずれあの先輩みたいになるぞ」と思い、一人前になる修業に耐え乗り越えてきたのではないでしょうか。時代も変わって、今は同世代の先輩がいないことが多くなりました。現場での訓練も含め研修の機会も減っています。こうした中で現実に直面したときにどう乗り越えていけばよいのかわからないまま、辞めてしまうのではないでしょうか。
 「新規学卒者の離職の状況」ですが、建設業は、高校から建設業に入った若者の約1/4が最初の年に辞めてしまうことが分かります。3年も経てば47%と約半分が辞めてしまいます。
 若者たちが将来への不安を募らせていることと、理想と現実の違いを受け止められていない姿が見えています。一人前になる道を見つけられず道に迷っている若者たちの手助けをどうしたらできるのかが今、問われているのではないかと思います。これらの背景を踏まえながら、先ほどのお三方のお話をベースに議論を進めていきたいと思います。

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○離職率は「目的意識」で差

豊田氏

■豊田氏:
 みなさんこんにちは。ご紹介いただきました豊田です。全国の工業高校並びに本校の卒業生の多くが、本日お集まりの企業に入職をさせていただき、感謝しております。内田理事長からお話がありましたように、どうしても離職の話題は避けられない状況かなと思います。高校全体をとらえますと、普通科高校と我々の工業高校は一体と捉えて文部科学省から数字が出ますので、本校含めて工業高校を卒業し、1年から3年で多くが仕事を辞めるということに誤解を招くところがあります。本協会では、近畿地区及び東海地区で年数を区切り、離職調査をしています。厚生労働省の調査では、高校全体で35.7%という数字があります。東海地区で4年間調べましたところ、約13(H24入社)~22(H18入社)%のとなっています。したがいまして、一概に離職をしていると言われていますが、それぞれの学校の設置目的によって違いますことをご理解いただけたらと思います。
 まず、建設業界における生徒の意識についてですが、工業高校については目的意識をしっかり持って入ってきていますので、将来は職につく、就業する意欲の高い生徒が非常に多い状況です。しかしながら、本校でもそうですが、途中で辞めてしまう生徒も中にはいますし、入学後なかなか目的意識を見いだせない生徒がいることも事実です。また、保護者の意識としても「工業高校に入学したからにはなんとか職につかせてほしい」という大きな願いがあります。工業高校の進学率については全国平均大体3~4割です。本校では3割程度が進学、7割が就職という状況になっています。
 ちなみに、現在本校では3年前に比べ、建設業界からの求人率は1.6倍となっています。毎年100前後が就職し、うち建設業に就職する割合は4割程度です。現在、工業高校の卒業生が全国的にも少なくなってきていますが、今後は情勢を見ながら私たちも取り組んでいきたいと思っています。

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○「自社の特徴」をきちんとアピールできているか

坂川氏

■坂川氏:
 日刊建設工業新聞社の坂川でございます。私どもはあまり若い学生さんに取材する経験がありませんので、どちらかというと企業の人事の方々との話が中心になるかと思います。
 最初に申し上げたいのは、出生率の低下で確実に若い人たちが減っているということです。これからは各産業界が人材の取り合いになります。それだけに、建設業全体がどういう意識で若い人たちを取り込んでいくかということが一番大切だと思います。そういった意味での最近の動きをご紹介したいと思います。
 昨年12月14日に東京建設業協会が初めて「建築・土木系学生のための合同企業説明会」を開催されました。私どもも非常に気になったものですから、終わった後に取材をさせていただきました。この説明会のモデルとなったのは3年前に始めた東京電業協会が開催した合同説明会です。電気設備工事は理系学生からあまり人気がなく、少しでも業界のことを知ってほしいという思いから始められました。そういった経緯で、東京建設業協会が東京電業協会に話を伺って、昨年初めて開催したのです。半年かけて準備されました。普通なら東京建設業協会だけが大学に開催の案内状を送るところですが、今回は東京労働局に後援を依頼して、労働局からも案内状が届くという風にしたそうです。このアイデアがかなり大学には効いたのではないかとおっしゃっていました。結果として63社の方がブースをつくられて、350人の学生が参加。目標を50人上回ったそうです。また、学生が人気企業に集中することを避けるため、各企業を万遍なく回るようなルールを設けました。学生が入ってくるとまず、「出会いの3社」と記載された紙を渡し、記載された3社を必ず回ってもらうようにしたのです。そういう風に、学生さんに自由にまわってもらう時間の他、パネルディスカッションの時間を設け、大手・中堅・中小それぞれの企業の特徴を話してもらったそうです。説明会後、学生の方にアンケートに答えていただいたそうですが、地元志向の強い学生さんやあまり転勤のないような会社に行きたいという学生さんが実は結構いて、「今まで中堅や中小企業の名前はあまり知らなかったけど、こんな会社もあったんだな」など、非常にいい反応を得たという話をされていました。学生さんからは「一般的な合同説明会ではなかなか出会えないような企業のお話を聞けた」とか「地方では新聞等で見ない関東建設系企業の話が聞けた」など、比較的好意的な意見が多かったということでした。企業側のアンケートを見ても大体が「有意義だったのではないか」ということでした。ただ、事務局の側から見ますとまだまだ持ち時間内のPRの仕方に各社かなり温度差がありまして、どうしても慣れない人事担当者が説明をすると途中で学生が席を外すとか、もう少し企業側のPRの仕方を勉強した方がいいのではないかという話でした。合同説明会では隣りのブースでどういう説明をしているのかが見られますから、そういった意味でも有意義だったという意見もあったようです。各企業が自分の企業の特徴をどうPRしていくかということも大きなポイントだと思いますので、会社のトップの方がしっかり自社の特色を見極めて、学生に畳み掛けていけば業界に入ってくる若者も増える気がします。必ずしも学生が大手志向ばかりだとは思いません。その企業の特徴というのをきちんとお話すれば、それに応える学生もたくさんいると思います。ぜひ企業の方にも考えていただけたらと思います。合同説明会では補助金として労働者確保育成助成金を使われたそうです。各社のブースの出展料は3万円だったと伺っています。大きな会場での出展料は50~70万の金額取られると考えれば非常に格安でできる。こういったことを団体単位で行うことはおおいに考えられるのではないでしょうか。先ほど福井さんから広島建設アカデミーで組織、団体として活動されているというお話がありましたけれども、おそらく産業界全体で学生を呼び込むためには、一社だけではできないこともたくさんあると思います。みなさんが力を合わせて学生に声をかけていくということが非常に重要なのかなという気がしています。以上です。
■内田理事長:
 採用に至ったかというところまでは分からないのですよね?
■坂川氏:
 それはまだですね。
■内田理事長:
 わかりました。ありがとうございました。それでは続きまして永井さんには経営者として、その中で見える若者の姿とかあるいは若者をサポートするという点からお話をいただければと思います。

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○「育つ環境」が若者を育てる

■永井氏:
 若者を見ていて私が思うのは、彼らは自分の興味のあることや好きなことには一生懸命ですが、それ以外のことに関しては義務・役割として言われたことしかやらないということです。ですから、いかにして仕事に興味を持ってもらい、仕事って楽しいなと思ってもらえるようなスイッチを入れてやることが非常に大事だと思います。一人前に育てるために、OJTとOFF-JTをしっかりミックスさせて効果的な教育プログラムをつくっていかなければと思っています。どちらか一方ではだめです。OJTを社内でしっかりやるには、まずは人が育つような社風や組織風土をしっかり作らなければなりません。そのためには先輩社員が部下や新入社員を育てようと前向きな気持ちを持ってもらう必要があります。昔は同じ社員同士であってもライバルになってしまいがちでした。隣りの人間が自分よりできるようになると、自分の地位が脅かされるのではないかというわけで、なかなか部下を育てるという風土が定着しないことがあります。まずは社内みんなで成長しようというように先輩社員の気持ちを持っていくことが大事かと思います。また、頑張れば評価してもらえるような人事制度も含めて「人を育てる組織体系」を構築する必要があると思います。
■内田理事長:
 ありがとうございます。福井さんは研修のビデオもつくられていて、社長としても若者を見ておられると思うのですが、理想と現実の第一歩としての研修の効果などについてもお話しいただきたく思います。
■福井氏:
 当社は専門工事業者で、いわゆる職人の会社です。元々はとび土工から始まり、今は大工・鉄筋と躯体一式をやっています。わたしは昭和45年生まれの今年44歳で、バブルの世代です。この世代より上の人間までは、目で見て盗めという姿勢が染みついています。人から教わるのではなく目で盗んで仕事を覚えろというもの。ですが、我々以降の世代というのは人に教わることが当たり前なのです。この「教わることに慣れすぎている」ということは、アカデミーとしても例外ではないと思っております。ですので、入社式で彼らに放つ第一声は「学生と社会人の差とは、消費者と生産者の差です。君らはお金を払って勉強してきたけれど、これからは勉強してお金をもらう。君らの仕事は勉強すること」。これまでとは180度違うのだということを徹底的に言います。入校式の後3日間は、各所から全新入社員を集めて江田島の集合訓練所というところで集合訓練をさせます。大声を出して腕立て伏せをさせ、さながら軍隊といった教育訓練を行います。ここまでさせなければ今の若い子は保たないというのが実際のところです。我々の若い頃は少々仕事がきつかろうが高い賃金を高く貰いたいだとか、いい車、バイクに乗るんだという野心がありましたが、今の子はそこまで貪欲さがないんですね。どうやって若い子たちを育てていこうかなというのが実際の思いであります。
■太田氏:
 福井さんがおっしゃった「教えられることに慣れすぎている」ということですが、私も普段学生を見て思っています。おそらく社会がそういう風にしていて、特に受験の悪影響というのは大きいと思います。日本の社会や企業というのはある意味で大変優しく、受け身でもなんとかなるのです。そのかわり頑張ったからといって何かが得られることもありません。ですから能力を高める機会も、「能力を高めて何になるの?」となってしまいます。収入だって年俸制なら大差はないでしょうし、「将来のキャリアアップ」といったって転職がそんなにあるわけじゃないしと。彼らも周りをよく見てそれに適応しているなという印象を受けますね。これが良いことか悪いことかは別です。やはり前向きな姿勢をもっと引き出そうとすると、やったらやっただけのものが返ってくるようなシステムにしないといけません。これは必ずしも高い地位やお金だけではなくて、世の中から認められるだとか評価される、活躍できる、注目されるといったこともありますから、工夫次第で可能だと思います。これを取り入れていくことが大事なんじゃないかなと思います。

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