基金の活動

第18回建設業経営者研修のご案内

若年者の確保・人材育成をテーマに「第18回建設業経営者研修」を開催

(一財)建設業振興基金 構造改善センター

 当基金は2月10日に東京都中央区の浜離宮建設プラザにおいて、建設業経営者、後継者、経営幹部を対象とする「建設業経営者研修」を開催しました。全国各地から例年を大きく上回る60名にご参加いただき、18回目となる今回は、「若い力が会社を変える、活力ある組織と経営のあり方を探る」と題し、建設産業において喫緊の重要課題である若年者の確保・人材育成をテーマに講演とパネルディスカッションを行いました。

 

 

永井氏

講義:「社員の安心、やりがいの追求と地域建設業における永続経営のあり方について」
講師:永井 康貴 氏

 永井建設株式会社 代表取締役、昭和43年、愛知県生まれ。永井建設株式会社の四代目社長。岐阜建設業協会労働委員、副委員長や岐阜経営研究会会長などを兼務。大日本土木株式会社、県庁の土木部を経て現職。

永井氏 講演資料

 

 岐阜県から来ました永井建設の永井と申します。皆様よろしくお願いいたします。
 当社は社員数30名です。売上は10億円前後で、経常利益は昨年が約5,000万円です。内訳は国交省や岐阜県、岐阜市からの公共工事が約8割で、下請の仕事も含みます。民間建築は2割です。
 私は今までに3つの職場で働いてきました。平成3年に大学を卒業後、大日本土木という中堅ゼネコンに就職しました。非常に大きな現場を経験させていただき、先輩社員にしごかれて良い経験をさせていただきました。2年間勤務した後、公務員試験を受け、平成5年から岐阜県庁の土木課に勤めました。当時はバブル崩壊後の景気対策としてどんどん建設国債が発行され、本当に建設業にとっては良き時代で、こなしきれないほどの仕事が出ている状況でした。私が採用された年は岐阜県庁では最大の採用数だったこともあり、私のような人間でも大日本土木や県庁に就職することができたのです。私は県庁土木課の面接採用試験のとき、志望動機として「ゼネコンでは土日の休日もなく、夜も12時にしか帰られないような毎日を送っていました。公務員なら定時に帰れますし、土日もしっかり休めるので公務員になりたいと思いました」と、正直にお答えしてしまったのですが、面接官の方は笑いながらも採用してくれたのです。昔は何も知らずに過ごしてきたなあと反省しています。県庁に就職後、3年毎に土木事務所、最後には道路建設課で予算編成などに関わり、計9年務めました。その後親父に「戻って来い」と言われ、仕方なく平成14年に永井建設に入社しました。平成17年に代表取締役として経営に携わっている次第です。

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○社長就任時の状況

 わが社は社歴が古く、現在決算は54期です。10年前までは売上が平均20億前後でしたが、それ以降は小泉構造改革や、民主党の「コンクリートから人へ」という政策のなかでどんどん売上が落ち込んでいき、売上が一番少なかった平成21年には7億円を切りました。赤字は4,300万円。平成16年以降、ずっと赤字を出してきました。私が就任したと同時に赤字になり、まさに「赤字社長」でした。その頃の私は「なぜこんなひどい時代に社長なんかやらせるんや。親父や祖父の頃は良い時代やった」などと被害妄想なことを思っていました。社員さんたちに対しても当時は不満を募らせていました。受注産業ですから、現場の人は営業さんが仕事を取ってくるのをただ待っているだけですし、営業さんはと言えば役所から仕事を出されるのをただ待っていたるだけ。みんながただ「待っている」状況で、自分から仕事を取りにいくような姿勢が全くない会社だったのです。社員さんは社員さんで私に不満がありました。4期連続赤字でしたし、給料は下がる一方、将来の希望なんてない。「あんな社長のもとでは不幸になってしまう」と。
 平成21年に当社は一番大きな赤字を出してしまったのですが、当時JCの先輩から「経営研究会」という経営者が勉強する会へのお誘いを受けて入会させていただきました。すると「まずは研修を受けるように」と言われまして、何も聞かされぬまま研修を受けたのです。それが「自己啓発の研修」だったのです。私は本当に何も知らなかったものでひどい目に遭ったのですが、それを機に、「自分は経営者として何もやって来なかったな」という至らなさを痛感しました。自分自身の意識や社員さんへの見方も変わって、経営を本気で一生懸命やろうと思いました。毎年利益を出せるようになったのはその後だと思います。

○意識改革「出来ない」から「どうすれば出来るか」へ

 「できない、無理だ」という言葉が一言目に出てしまう人がいます。取り組む前から「出来ない」と思っているので、出来ない理由を考えては毎日言い訳をしているのです。私は「言い訳を考えている暇があるならどうすれば出来るか、上手く行くかを考えた方が有意義」と思っています。出来なければ、その人の評価はずっと下がったままなのです。「出来るように考える」ということの大切さを社員に伝えるためにも、トイレの小便器や大便器の前に言葉の張り紙をしています。常に目につくところに掲示して、潜在意識に訴えかけながら「出来ないと決め込んでいないか」常に自分に問いかけるような環境をつくっています。
 毎月第一月曜日は朝7時に集合して、約30分間ゴミ拾いをしています。いつも道路建設などでご迷惑をおかけしている地域住民への恩返し。その後それぞれが現場に向かい、8時から仕事をスタートします。

○社内勉強会の立ち上げ

 「社内勉強会」と「委員会活動」をそれぞれ月1回、計2回やっています。これ以外にも、経営研究会の例会など、異業種の方々とともに経営を勉強する場にも連れ出し、社員さんにも可能な範囲で積極的に参加していただいています。年度末の1月~3月はやはり忙しく、社員さんの参加は難しくなりますので4月~11月の間は、なんとか皆さんに参加していただくようお願いしています。
 「社内勉強会」への参加者数は、社員数30名のうち23名前後です。毎月最終木曜日、6時半に会社で集合。1時間半ほど経営の本を読んで設問を解き、発表し合います。参加者が書いた文書に対して、私がちょっとしたコメントを添えて、次の会でお返しします。なかには「うちの会社は何もできていない」、「あいつはダメだ」といった否定的なことを書いてくる社員もいます。それに対して私まで同じように「お前もダメだろう」と否定で返してしまっては、どんどん深みに入ってしまいます。ですから「その人が前向きに考えられるような言葉をいかにして返すか」ということを私はいつも考えています。これが私にとってもトレーニングになっているような気がしますね。社員さんの心のバロメーターがよくわかりますから、やって良かったです。
 この「社内勉強会」には監督さんや作業員さんだけでなく事務員さんも参加しています。現場を知らない事務員さんの方が、この場で作業員さんや監督さんと話を交わすと「現場ってこういうものなんだなあ」といったことが把握できます。電話対応にもプラスに働いています。
 また、月に1回「委員会活動」をやっています。3年ほど前から始めたのですが、最初はコスト削減ばかりを目的にしていましたが、現在ではいくつかの委員会を設けています。「コスト委員会」の他、「安全委員会」、「レベルアップ委員会」、「評価向上委員会」。私はこれらの委員会にほとんどノータッチです。ある程度のルールだけ私が決め、その後のことは社員自らで決める。自分たちの力で会社を良くしていくのが目的です。
 「委員会活動」では「社員同士での飲み代を、経費としていくらまで認める」とルールを設けました。すると社員同士で食事に出かけるようになり、コミュニケーションが図れるようになりました。ありがたいことに「飲み食いしちゃったし成果を出さないと」という義務感も発生してくれます。ルールを作って良かったと思っていますが、社員さんに「会社を良くしていこう」と「考える習慣」が生まれたことが良かったです。

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○社長の本気度を社員は試している

 もちろん「社内勉強会」も「委員会活動」も、すんなり上手く行ったわけではありません。「社内勉強会」の初年度は、年度末でもやっていましたので、社員さんからは「こんな忙しいときに、どうしてやらなくちゃいけないのか」、「本当に利益につながるのか」といった不満の声も上がりました。社員さんの回答で使われる言葉も「お客様」ではなく「客」でしたし、まったくどこから手を付けていいのやらわからないような状況でした。不満の声が本当に多かったので、仕方なしに年度末まで中断して4月から再開しようということで、数ヶ月間中断しました。
 そんな状況を、ある講師の方にお話ししたのです。するとその方は「社員は、社長からどんな反応が返ってくるのか試してるんやぞ。『絶対やってやるんや』って本気の姿勢を示したら、社員だって「どうも社長は本気みたいだぞ」と折れるだろう。本気度を試されてるんやぞ」と言われました。それで2年目からは年度末であろうが絶対にやめないと強い姿勢で挑みました。今もそれは継続しています。
 社長就任当時は総合評価が導入された時代でもあったので、社員さんからは「社長は利益と総合評価の点数どちらを取るんですか?」と二者択一を迫られました。そのとき私が答えたのは「両方追求する」ということです。おかげさまで今では利益も出させていただきましたし、点数においても今まで当社は表彰などとは全く無縁だったのですが、毎年いただけるまでになりました。

○積極的に地域と交流

 年に一度、地元の厚見小学校では8月の第一日曜日に夏祭りが開催されます。昨今、小学校には登校日がないようで、夏休みに入ると一度も学校の友達と顔を合わせないような状況なのですが、この日は唯一顔を合わせられる場となっています。親御さんと子供たちが盆踊りを踊りながら出店も楽しむのです。基本的には自治会や子供会といった地域の公共団体の方が、金魚すくいや綿菓子などの出店をやられています。そんななか、わが社は唯一の一般企業として出店させていただいています。
 お手玉を投げて缶倒しをするゲームの模擬店を出店しました。私が社員さんに「ゲームの景品何にする?」と聞くと、社員さんは「カブトムシがいいんじゃないか」と。「それはいいね!」ということになり、仕入れ方法についての話になったところ、社員さんは「ホームセンターで買ってくる」と。私が「いくらするの」と聞くと、「500円くらい」だと言うのです。この夏祭りの模擬店は全て100円です。そこへ500円の景品というのはどうなんだろうと思いました。ですから私は「それは一般企業だからできるかもしれないけど、他のブースの方は全員ボランティアでしょ?80~90円程のものしか出せないと思うよ。ヒンシュクを買うからダメ」と話したのです。
 さて、どうするかなと思い見ていたのですが、なんと社員さん、毎朝現場が始まる前にカブトムシを採りに行ったんです。2週間雑木林に行って、結局200匹くらい捕まえてきたんですよ。すごいですよね。社員さんも自分が捕まえたカブトムシで子どもたちが喜んでいる姿を見て、すごくやりがいを持つようになりました。
 盆踊りの櫓を組むお手伝いもさせていただいたりして色々な形で協力していると、我々が「工事による通行止めの案内」を地元の広報誌に出したときには、地域の方に「こんな工事をやるんですね~」と気軽に声をかけていただけますし、快く受け入れてくれるのです。工事というと結構嫌な顔をされてしまうものですが、「永井建設です」と言うと「ああ!永井さんのところですね!協力しますよ」と好意的に接していただいていますし、ボランティアへの参加はわが社にとって非常にプラスになっています。

○成長にコミットし、安心を独創する会社を目指す

 社長就任後熱心に勉強するようになって、私はネッツトヨタ南国さんという目標とすべき素晴らしい会社にも出会えました。それだけでなく、今までのただ仕事を待つだけのしがない待ちの会社から、攻めの会社へと変わりました。
 昔は「ライバル会社と叩き合いをしてでも、自分たちが生き残っていく」という考え方を持っていましたが、今は考え方も変わりました。「違う。相手を倒すのではなく、自分たちがお客様から選ばれる存在になる、成長できれば選んでいただける」と。また、「息子にはこんな辛い思いはさせたくないから絶対に継がせない」と思っていたのですが、今は「ぜひこの経営者という立場を経験させてやりたい」という考えでいっぱいです。社員さんにも、ぜひ大きなポジションをつくってあげたい。営業所や支店を出せるような会社をつくって、社員さんたちが活躍できる場を与えてあげたいなと思えるようになりました。
 理想は、経営計画書をつくれる会社をつくること。今は経営計画書というよりは予定書なんですね。自分たちの力でしっかり仕事を受注して、利益を作り出す会社にしなければなりません。社長がいる必要のないくらいきちんと会社を仕組化して、社員自ら考えて行動できるような会社をつくっていけるよう一生懸命努力しています。
 こんな場で言うのもなんですが、「カンブリア宮殿」に出られるような会社したい。特徴のある素晴らしい会社しか出られない番組ですから。そしてテレビで世間にうったえたい事があるのです。東日本大震災で真っ先に現場に駆けつけて、道路を開拓した東北の建設業者さんの活躍は全然テレビに報道されませんでしたが、これが私は非常に悔しかった。テレビに出て、建設業で頑張っているひとたちを世の中に発信したいのです。
 去年の年末にようやく自分のなかで「これだ!」という経営理念が確立できました。「成長にコミットし、安心を独創する」ということです。これは「安心」ということです。安心して働ける職場や、世間から「この会社なら安心して任せる」という状態をつくりあげること。これは会社の成長や受注にもつながります。
 そして、独創すること。人がやったことを後追いするのではなくて、自分たちが先頭に立ってその「安心」を独創していきたい。後ほどの懇親会でもいろいろな情報交換をさせていただければと思います。ご清聴ありがとうございました。

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