基金の活動

第16回建設業経営者研修「逆境を生きる建設業の経営戦略」開催報告

(一財)建設業振興基金 構造改善センター

(一財)建設業振興基金では、経営者、経営後継者、経営幹部の方を対象とした研修を開催しています。第16回目となる今回は、2月6日(月)~7日(火)に東京都港区のメルパルク東京おいて開催され、全国から30名の方にご参加いただき、好評のうちに終了いたしました。

1.「本業で売り上げを確保する秘訣」

講師:戸沼岩崎建設株式会社 代表取締役社長 戸沼 淳氏

 戸沼岩崎建設(株)代表取締役社長。函館市。得意分野の治山工事に注力し、経営力強化。自社で機械・装置を開発・改良、施工力向上に余念なし。地域オンリーワンを目指す。
 公共工事が減少の一途をたどる中、函館市で公共土木工事をメインとする同社の経営戦略と具体的取り組みについて講義いただいた。同社は、2年前の平成22年1月に、河川や急傾斜工事を得意とする戸沼建設と道路・港湾工事を得意とする岩崎建設が合併し、誕生した。一般的に建設業は合併によるシェア拡大効果が生まれにくい産業であるといわれるが、同社が合併を決断した背景や目的とその経緯等について、経営基盤・技術力・施工力の強化の観点から、分かりやすく紹介いただいた。

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次に、同社の競争力強化戦略について講義いただいた。特に、斜面安定化工事における「ノンフレーム工法」は、環境面、コスト面、施工性にも優れた工法として、平成11年度に北海道で初めて発注されたのを機に、いち早く取り組みを開始。騒音対策や施工効率の工場など、積極的に技術開発・改良に取り組んでいる。社内の改善報告会においては、技術者同士で問題点を洗い出し、さらなる改善に向けた研究も行っており、自社の強みをさらに追求し、他社には真似できない技術を確立しており、事実、道内でこの工法による工事実績を持つのは同社だけであるとのこと。
 続いて、会社としていかに有機的に組織力を発揮していくか、その企業力強化戦略について講義いただいた。同社では、会社の目指すべき方向性や存在意義といった経営指針を社員に明確に示し、これを隅々まで浸透させる取り組みを行っている。社内研修においては会社の財務面も開示し、問題意識の共有を図っているほか、ISOを特別扱いせず、実践的に活用することで、新しい社内文化の醸成を図っているとのこと。
 最後に、自然を相手にする建設企業として取り組んでいる「NPO法人北海道魚道研究会」の活動も紹介いただいた。河川工事において、魚の遡上ルートとして設置される魚道が、そのまま放置されている現状を改善すべく、戸沼氏が地域の建設企業などに呼びかけて設立したNPOで、魚道清掃のボランティア活動をはじめ、シンポジウムの開催や地元高専との共同研究などを通し、地域貢献活動を行っているとのこと。
 受講者は、企業合併から専門技術の開発、経営指針の確立と浸透、地域の自然環境に対する社会貢献活動まで、幅広く中身の詰まった講演内容に深い感銘を受けていました。

2.「企画提案型営業による事業領域の拡大」

講師:瀬戸建設株式会社 代表取締役社長 瀬戸 良幸氏

 小田原市。地域特性を把握した企画提案型営業により複合型医療・福祉・介護施設の建設で実績。事業を絞り込む勇気と社員の意識改革で変化適応体質を確立。
 同社は、地元の小田原市を中心に、神奈川県内に多数の福祉介護施設、医療施設の建設を手懸けている。待ちの営業から、自ら動いて企画提案し、売上を確保していく同社の経営戦略について、同社が手がけた施設の具体事例を紹介しながら講義いただいた。

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 同社のこれまでの歩みは、決して平坦なものではなかった。平成10年当時は、土地取得を含めた不動産投資による過剰資産が経営を圧迫しており、追い打ちをかけるように、あるホテル建設工事において、施主の資金ショートの煽りをもろに被るなど、経営状況は、大変厳しい状態にあったそうだ。
 振り返ると、バブル後もしばらく続いた好景気の中で生じた甘い会社体質と受注確保を優先した経営に要因があった。様々な工事の中には、採算の悪い工事もあり、残ったのは「特徴のない会社」という現実であったそうだ。
 まずは、幹部自らが、甘えの体質を絶つことから改革をスタートさせ、徐々に社内の意識を改革していった。経営コンサルトとも相談し、自社の足元をしっかりと見つめ直した結果、大手住宅メーカーの下請や公共土木工事、単なる低価格入札などからは撤退することを決断。さらに、今後の活路として、高齢化が進む中、成長が見込める分野である福祉介護施設、医療施設の建設を自社の事業領域の柱に据えることを決定した。平成17年度には、老人介護付き共同住宅が、「在宅支援ハウス」として、国土交通省の「新分野進出/経営統合等モデル構築支援事業」に採択され、同社の商品力・企画提案力強化の取り組みが、一つの実を結んだ。
 個々の事例紹介においては、施設の概要や特徴、ライバルを抑え、どのように施主に対し提案していったかなどについても紹介いただき、いくつかの事例では、企画提案の際の収支内訳も開示していただいた。
 受講者は、自社の現状分析や経営者の決断の重要性について改めて実感すると共に、同社の企画提案力の質の高さとそれを実行できる豊富なノウハウなどに感心していました。


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