枝川 震災直後と2年経過した時点でマスコミの報道の視点というのは変わってきているのでしょうか?
久保田 震災直後に見えてきたのは、内陸部の建設業団体が沿岸部の被災地の支援に行くなど、業界団体の行動力と組織力の強さでした。その後、復旧工事が進むにつれて資材不足や人材不足などの問題が浮上するようになると、それらの対策会議を業界団体が主導して開催するようになり、そこでよく聞かれたのが「建設業は一丸である」「オール建設業で行く」といった言葉。私自身「過去に、これほど建設業がまとまったことがあっただろうか」と思ったものです。
報道の視点としては、我々専門紙としては「公共事業は社会資本整備に必要不可欠なもの、建設業はそれを支える重要な産業である」と一貫して述べてきました。その半面、一般誌や新聞の中に“アンチ建設業”の見方があったことも事実です。しかし、震災以降は私たちの主張に同調する声が多くなり、さらに昨年末に起こった笹子トンネル崩落事故の際には、社会資本の老朽化が問題視されました。国民の「これは何とかしなくてはいけない」という声の高まりの中で、その改修を担う建設業の社会的存続が注目されるようになり、行政や業界団体は「建設業の必要性をもっとアピールしよう」という意識が強くなっているようです。行政と業界団体の意見交換会に行くと、確かにそういった空気を感じますし、今がチャンスだと思います。ただし、単にアピールしても伝わるわけではなく、工夫は必要でしょうね。とにかく震災を機に、行政や業界団体の意識が変わってきたことは確かです。
枝川 内田理事長に伺います。報道されたものを見る立場ということで、最近の被災地の建設企業の報道ぶりに何かご感想はありますか。
内田 業界内には自分たちのことをちゃんと伝えようという機運が高まっていますが、実際にうまく行っていると思われますか?
久保田 『日経コンストラクション』の特集記事を見ると、全然伝わっていないじゃないかという人もいます。でも、私は震災前に比べればじわじわと伝わっていると思っていますよ。
内田 『日経コンストラクション』の記事は、貢献に対する国民の認知度で建設業が自衛隊に完敗したという内容でしたね。ただ、データをよく見ると、2割近い人が建設業の活動を認めており、地元自治体やNPOの活動と同程度の評価です、マスコミ報道が少ない中で、むしろ国民は気づいてくれていたというのが私の実感です。ただ、発災後、瓦礫の処理が遅いという強い非難の声が上がりました。実際は、「瓦礫を一つずつ取り除いていって、ご遺体が発見されればそれを安置所に納める。その繰り返しで、瓦礫処理という言葉で現せるような作業ではなかった」とのこと。そういった現場の生身の苦労をどうやって伝えていくかが今後の課題です。災害時の活動の詳細を記録にとどめ公表していく、その取組が重要になると思います。さらに、なかなか難しいとは思いますが、活動途中の情報をリアルタイムで報道機関に提供する体制も検討する必要があります。
枝川 今年1月11日に出された「日本経済再生に向けた緊急経済対策」では、「東日本大震災からの復興のため、これまでの体制や取り組みについて強化し、現場の目線に立って復興を加速する」とあります。今後の復興の進展に沿って、地域の建設業団体として担っていかなければならない役割、課題は何でしょうか。行政や国民に期待することも併せて、向井田副会長はいかがお考えですか。
向井田 今の内田理事長のお話に関連しますが、私は被災地の最前線にいた人間ですが、そこで言えるのは、自衛隊も警察も役所の人も、そして建設業の人もみんな必死にやってくれたということです。自衛隊の若い隊員が被災者に暖かい食事を配る中で、彼らは乾パンをかじっているんです。警察も役所も建設業者も同じで、自分のことを顧みずに復旧活動に尽力してくれました。協会の会員は544社、約1万3,000人が働いています。そのネットワークを使わない手はない。地元の建設業はいろんな持ち味があり、役割を持っています。そういった意味でも、奢らずに、自分たちにできることは何かをもう一度見つめ直して、協会員としてのモラルも含めて、一層精進していきたいと思います。
枝川 久保田次長は、今後、どういった事柄を中心に、またはどのような視点で報道をしていきたいとお考えですか。
久保田 先ほどから建設業の広報、アピールの仕方が話題に上っています。建設業は裏方だから目立たなくてもいい、という意見もありますが、私たちはそんな方々のためにも、行動や声を拾って世間にアピールしていきたいですね。それから、いくら受注量が増えても赤字経営では仕方がない。ここで本業を立て直していくことが求められます。建設企業の本業強化に役立つような情報提供に努めたいと思います。
枝川 復興の進捗につれて、東北地方の建設業の経営状況はどう変化していくでしょうか。発注制度の改善など行政が留意すべき点も併せてお話しください。
中野 被災地については、ここ数年の工事は多いでしょうね。しかし、資材価格や人件費の高騰などを考慮すると、利益計上が困難なことも予想されます。加えて5年、10年先が見えない中で設備投資等を躊躇する経営者は少なくないと思います。この先、国や市町村が長期的なスパンで公共事業を明示するなどすれば別ですが、なかなか難しいと思われますので、工事ごとの利益確保は最重要課題だと考えております。また、今年3月末には中小企業金融円滑化法が終了しますが、新たな中小企業への資金面のサポートが必要になってくるなかで、現在、被災地では特例として工事の前払金が5割支出されております。この措置の継続もひとつの有効な施策と考えております。
枝川 最後に内田理事長にお聞きします。建設業振興基金として、被災地の建設企業・団体の活躍をどう支援していきたいとお考えですか。
内田 今度の補正予算で、災害時に必要な建設機械の購入費も基金が行う債務保証の対象となりました。冒頭ご紹介したものも含め金融支援事業が実体的な支援の核になります。また、基金独自の団体助成制度をさらに3年間延長することにしてますが、今回は、緊急時の出動態勢の整備など災害対応に備える事業や戦略的広報事業への取組を助成の対象にしました。是非ご活用いただきたいと思います。もちろん災害時の対応の記録の蓄積は今後も続けていきます。
今回の大震災では想定外の事態への対応力が必要だと痛感させられました。こうした事態に基金がお役に立てる組織であるためには、まず「情報の感度を上げる」こと。業界団体とのパイプを日頃から太くし、ニーズをいち早くつかめるようにしておく必要がある。2つ目に「頭を柔軟にする」こと。そんなことは出来ないと最初から決めつけずに、まず解決方法を考える。そんな組織体質にしておく必要があります。そして、3つ目は「フットワークを軽くする」こと。すぐに現地に出かけて行く、一緒に汗をかく。そうした基金でありたいと思います。
それから向井田さんの話にあった、ことさら「やってるぞ」とアピールするのではなく、相手が望む情報を広報するということ。「相手が知りたいと思っていることをきちんと伝える」それが戦略広報の基本だということを忘れないことですね。
枝川 本日は長い時間、どうもありがとうございました。