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未来のi-Conを占う
ドローンによる空撮写真から作ったダムのCIMモデル(資料:パシフィックコンサルタンツ)
CIMモデルの表面に張り付けられたダムの写真。拡大すると0.2mm幅のひび割れも発見できる(資料:パシフィックコンサルタンツ)
当面のi-Conでは、トップランナー施策として上げられたICT土工やコンクリート工、施工時期の平準化に主眼が置かれているが、今後は建設フェーズ全体の最適化を図るため、あらゆる施工プロセスに、新しい技術が導入されていくだろう。近未来のi-Conの姿を筆者の独断と偏見で占ってみた。
パソコン上で行う維持管理 実物をCIMモデル化し、異常発見
完成後の構造物や社会インフラの維持管理も、i-Con的なやり方でずっと楽になりそうだ。コンクリート構造物の場合、現在は「近接目視」によってチェックし、0.2mm幅以上のクラックを見つけ、記録するのが基本だ。そのため、専門家が足場や高所作業車などに乗ってじかに現場を見て回るという地道な作業が必要だ。
しかし、ドローンや望遠レンズによって構造物の表面をつぶさに撮影し、その写真を表面に張り付けたCIMモデルを作ると、パソコンの画像処理ソフトによってひび割れなどを自動的に発見することもできそうだ。
舗装や橋梁など、道路関連の点検や維持管理業務に、最近、大手の電機・通信メーカーや警備会社が、続々と参入している。これらの企業では舗装の状況などをいったん、動画や静止画、走行時に路面から受ける加速度、そしてGPS(全地球測位システム)などでデータ化し、それをクラウドシステムに上げてコンピューターで異常個所を発見するといった方法で大幅なコスト削減や省力化を図っている。
そして本当に問題があるところをCIMモデル上で絞り込み、専門家を本当に対策が必要なところだけに投入するのだ。こうしてCIMモデルによる情物一致が、限られたマンパワーの「選択と集中」を可能にするのである。
VRで高齢のベテランも現役復帰
現在はドローンやICT建機、そしてCIMソフトがi-Con対応工事で目立っているが、今後の現場はどう変わっていくのだろうか。筆者はVR(バーチャルリアリティー)と巨大3Dプリンターが現場の仕事を大きく変えていくと予想している。
VRとは、CIMモデルのような3Dデータを実物大で立体的に体験できるシステムのことだ。2016年は"VR元年"と呼ばれ、高性能で低価格のヘッドマウントディスプレーや、BIM/CIMソフトをVRで見るためのソフトなどが多数、発売された。
CIMモデルは構造物を3Dで再現したものだが、パソコンの画面で見ている限りは「平面」で表されたコンピューターグラフィックスやアニメと変わらない。それをヘッドマウントディスプレーや3DスクリーンなどのVRシステムで見ることにより、まるで現場に立っているかのようなスケール感で体験することができるのだ。
これは情物一致の第2段階、つまりCIMモデルで現場や構造物の様々なことを検討するのに大きく役立つ。現場を実物大で見ることで、施工や維持管理を行う作業員の動線に支障はないか、手すりなどの安全性に問題がないかなどをリアルに確認できる。
遠隔地にいる専門家やベテラン職人にも、インターネットを通じてVRで現場を見てもらい、アドバイスをもらうことができるのだ。高齢化で現場の足場を上り下りする体力はないが、過去の経験を生かしたいベテランの力を借りるといった現場運営も可能になってくる。
VRによる現場の事前体験例(資料:一二三北路)
現場の細部まで立体視によって事前に確認し、安全性などを確かめられる(資料:一二三北路)
3Dプリンターが建設機械に
最近、実用化が進みつつある巨大3Dプリンターも、近い将来、情物一致の第3段階、つまりCIMモデルを現場で施工する道具になってくるかもしれない。
3Dプリンターといえば、これまではせいぜい数十センチ角程度の模型を作るために使われてきたが、最近、世界のあちこちでコンクリート状の材料を層状に積み上げて建物や土木構造物を作る「3Dコンクリートプリンター」が実用化されつつある。
例えば、2015年にはフィリピンのマニラ近郊で、3Dコンクリートプリンターを使ってホテルの別棟が施工された。また、アラブ首長国連邦のドバイでは、世界初の3Dプリンターによって建設されたオフィスもオープンしている。
3Dコンクリートプリンターの特徴は、型枠なしで垂直の壁や柱など、様々なコンクリート構造物が作れる点だ。i-Conで活用が期待されている打ち込み型枠の製造にも、3Dコンクリートプリンターは大いに活躍できるだろう。
また、道路舗装の分野では凸凹になった路面に従ってアスファルト合材の厚さを調整し、敷きならす3Dプリンター型のアスファルトフィニッシャーも米国で開発が進んでいる。一般の3Dプリンターは平面の上に立体を造形していくが、こちらは凸凹を埋めて平らに仕上げるという逆転の発想の3Dプリンターだ。
アスファルトフィニッシャーには、路面に送り出す合材の厚さを調整する「スクリード」という部材がある。この部材を路面の凸凹に対応して自由な断面形状に変化できる「3Dスクリード」にしたものだ。フィニッシャーの前に取り付けた3Dスキャナーで路面の凹凸形状を計測し、即座にCIMモデル化し、その凹凸形状に対応して3Dスクリードの形を変える仕組みだ。
このアスファルトフィニッシャーが実用化されると、凹凸になった路面を切削して平らにするという作業が不要になる。舗装の補修作業は傷んだ路面上に直接、アスファルトを敷いて平らに転圧していくというシンプルなものになりそうだ。
3Dコンクリートプリンターで施工中のホテル
(写真: Andrey Rudenko)
舗装用3Dプリンターのイメージ図
(資料:Advanced Paving Technologies)
道路の陥没深さに応じてアスファルト合材の厚さを変えて敷きならし、転圧して平らにする
(資料:Advanced Paving Technologies)
i-Conは今後もIoTやAI、VRなど、世の中の新しい技術を導入しながら、急速に進化していくだろう。工事現場は今、ドローンによる測量やCIMモデルによる設計・検討、ICT建機による施工など、工事現場は見えないところから少しずつ変わり始めている。
今後は3Dプリンター技術やプレハブ化を導入した新工法や、無人工場のような現場も登場し、工事現場のイメージは大きく変わっていきそうだ。
i-Conが日本の建設業を成長産業に変え、国内だけでなく海外へも市場を広げていく新時代を迎えることを切に願っている。
(参考サイト)国土交通省ウェブサイト
「i-Construction」