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復興を担う地域の建設業

復興を担う地域の建設業 復興、そして未来へ 〜東北の建設業界を語る〜

内田 俊一:(一財)建設業振興基金 理事長
向井田 岳:(一社)岩手県建設業協会 副会長
久保田 伸二:(株)建設新聞社 編集部次長
中野 幹夫:東日本建設業保証株式会社 宮城支店取締役支店長
枝川 眞弓:(一財)建設業振興基金 構造改善センター研究部長

 2011年3月11日に発生した東日本大震災から丸2年になります。本誌『建設業しんこう』では、昨年3月に「東日本大震災後1年 復興に向けた地域の建設業の活躍を語る」と題した座談会を掲載しました。今回は、その後1年を経過して、復興も本格化していることから、再度座談会を開催し、それぞれの取り組みと現状について、さらにはそれぞれの立場での復興への思いを語っていただきました。

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向田氏

向井田 あっという間の2年間だったというのが偽らざる感想です。3・11の震災当日は、盛岡の建設業協会本部で施工管理技士会の技術発表会に参加していましたが、これまでに経験したことがない強い揺れに「これは尋常ではない」と思い、全県から集まっていた参加者全員をすぐに地元に戻らせました。自社は津波の被害を免れましたが、工事現場が津波に襲われて大きな被害を受けました。そういった経験と、協会の副会長という立場で被災した会員さんの話を聞いた経験をもとに、これまで全国各地で講演してきました。そこで感じたのは、私が思っている以上に皆さんは「震災と復興についてご存じない」ということです。何度も新聞やマスコミで取り上げられている話も「知らなかった!」という声が多く、直後の状況は知っていても、その後の復興の状況は大半の人がほとんど知らない。やはり実際に来て見てもらうことが重要だということで、そういった活動も行っています。
 また、全国の仲間たちから多大な応援や援助をいただき、本当に感謝しきれないほどです。例えば震災直後に燃料不足で困っていると、北海道から被災地までタンクローリーでガソリンを運んでくれました。どんなに助かり、勇気づけられたことか。

枝川 ありがとうございます。続いて建設新聞社の久保田次長、お願いします。

久保田 当社が発行している建設新聞は東北六県を読者層に、公共工事と民間工事の情報や行政、建設業界の動向を掲載してきました。震災後は、復旧・復興に関する情報が紙面の大半を占めるようになりました。震災直後は世の中のすべてがストップし、当社の印刷所も被災したため、どうしたらいいのか途方に暮れたこともありました。しかし、何とか現状を伝えたいということで3日間ほどは当社のウェブ上で記事を発信しました。取材についても、燃料不足で車が使えず、歩いて現場まで行くといった状況でした。業界団体に取材に伺っても、なかなか実態が見えてこない状況もあったのですが、その後に宮城県建設協会の各支部に聞いてみると「当初は、個別に対応していた企業も多かった」ことが判明し、そこまで取材が至らなかったことに反省しました。
 昨年からは復旧・復興のニュースが多くなり、とくに着工式の取材が増えました。それまでは多くても5~7本くらいだったのが、11月には17本もあって復興に向けて工事が本格化してきたんだな、と肌で実感している次第です。

枝川 東日本建設業保証の中野支店長はいかがですか。

中野 震災から2年が経つわけですが、震災直後に私どもがやらなければならないと感じたのは、復旧に際してたくさんの企業が工事を施工することになりますが、保証の面で工事の進捗の妨げにならないよう、企業と会話をしながら復興の一助となるということでした。そして災害復旧に関して平成23年は調査や測量、設計が主で、本格的に工事が始まったのが平成24年に入ってからでした。そんな中でも特に宮城県発注の瓦礫処理8件で約4,100億円の工事が衝撃的でした。他にも徐々に工事が大型化して、私どもの保証の取り扱いも飛躍的に増加してまいりました。ただし、瓦礫処理もまだ全体の20〜30%程度の進捗と聴いております。復旧が思うように進まない事情も多々ありますが、私どもができることを一番にやるということが重要だと考えております。保証会社が必要とされている役割を意識し、いかに業界をバックアップできるかを考えながら業務を進めているところです。

 

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内田氏

枝川 それでは、当基金の内田理事長から、復旧、復興関係する当財団の事業等についてご紹介いただきたいと存じます。

内田 久保田さんから震災直後は何をやったらいいのか分らなかったというお話がありましたが、私どもも同様の状況でした。とりあえず、被災地の県協会へ見舞金をお届けし、その後災害対応事業への緊急助成を実施しています。次第に国の対応が本格化する中で、債務保証事業の対象に建設機械のリース、放射能の除先業務、作業員宿舎の建設などを加え金融支援の体制を整えました。
 基金では、当時、建設産業に関するデータを収集し提供する拠点という役割を今後担う必要があるという議論をしていましたので、発災後の地元の建設業界の取組を詳細に記録として残すための調査事業を行うこととしました。この調査は初めての試みとして報道機関との共同調査という方式でやりましたが、報道機関の取材力を活用出来たことによって立体的で臨場感のある情報収集が出来たと思っています。現在、昨年の北部九州豪雨災害について調査を行っていますが、ここでも同じやり方を取っています。
 それから、当基金が関係している富士の訓練校においては、厚生労働省の依頼を受けて、被災者の中から希望を募り、建設技能の訓練をして資格を取ってもらい復興に役だって頂くという事業も行っています。

 

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中野氏

枝川 向井田副会長に伺います。岩手県を含め被災各県の復興に取り組む建設企業の現状と課題、建設業団体の役割についてご紹介ください。

向井田 岩手県の場合は、震災直後から協会の会員がよくまとまっていたと思います。安否確認など連絡がつかない中でも、協会本部や支部に問い合わせると、いろんな体制を直ちに取ってくれたという声が多く、これは非常に高い評価を得ました。さらに復旧・復興活動においても自衛隊、各地域の警察、行政などと協力し合いながらに取り組み、「協会の会員の対応が良かった、非常にまとまっていた」といった評価も頂きました。岩手県建設業協会の会員は546社、県全域に13支部あり、今回大きく被災を受けたのは沿岸5支部です。全国的に建設業協会の会員数が減少する中で、震災以降、岩手県建設業協会では26社も会員が増えているんです。これは、この2年間にわたる協会の地道な活動が認められたことの証だと思っています。

内田 なぜ岩手県では、そういったことが可能だったのでしょう。震災の直前に訓練を行ったのが機能したのでしょうか。

向井田 協会の会員全員にイントラネットを構築し、常に情報共有をしてきました。一つには、それが機能したのでしょう。各支部にサポートチームを置き、イントラネットの使い方などを指導して回っています。例えば、釜石では、県の要望で岩手県沿岸広域振興局に釜石支部を置き、そこに官民一体で対策本部を作りました。
復興の現状については、いろんな意味で遅れています。これはさまざまな要因がありますが、ひとつには技術者が足りません。現場の技術者の皆さんは不眠不休で奮闘されていますが、如何せん絶対数が足りない。人材不足の問題は、震災前の「公共事業の減少に伴った人材の減少」が大きく影響しています。震災が発生し、公共事業が急増していても、すぐに増やすことはできず、皆さん苦労しています。
 他県から応援を呼べばいいと思うかもしれませんが、応援にも限度があります。働く人が用意できても、その人たちの宿泊場所が確保できず、そこは各経営者のジレンマになっていると思います。

枝川 いま公共工事のお話が出ましたが、中野支店長には、東北各県の復興事業を含めた公共事業の動向や最近の建設業の景況などについてのご紹介をお願いします。

中野 私どもの実績で見る東北六県の工事量のピークは、平成10年度に2兆8,000億円でした。それから公共事業の抑制などがあり、震災前の2〜3年は1兆円前後を推移していました。震災後は主な被災3県、岩手、宮城、福島を中心に復旧工事量が著しく増加し、今年の1月末で1兆8,000億円。3月末で2兆円をオーバーする見通しです。県別に見ると、岩手県は沿岸部の復旧が主で、予算的にもまだ2割程度しか進んでおらず、今後大型工事の発注が増加すると予想されます。宮城県の場合は瓦礫処理費が一番大きく4,100億円、それ以外にも河川関係、道路関係の復旧、農地関係の塩抜きなどもあります。また、沿岸部ではCM方式による街づくりも始まりました。仙台市では公営住宅の復興も一部始まっております。福島県については除染工事が主で、汚染地区についてはほとんど復旧が手つかずの状況になっております。
 東北地方の建設業の景況については、弊社で実施している「建設業景況調査」によりますと、被災3県の岩手、宮城、福島は「良い」ですが、秋田、青森、山形は「悪い」と明暗が分かれております。

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