経済

日本経済の動向

価格急騰の懸念は杞憂かもしれない 原油価格の行方~「大幅に下がる」可能性も

みずほ総合研究所 副理事長 杉浦哲郎

原油価格は、世界経済を動かす重要な要素である。また、ガソリンや原料の価格に反映され、事業への影響が
大きいことから、経営者にとっても大きな関心事であるだろう。昨今は、足下での価格上昇が注目されているが、
筆者は一部の懸念とは異なり、「いずれ下がる、ひょっとしたら大幅に」と予測する。
今回は、原油価格の行方について解説する。

足下で上昇中の「原油価格」

 今週発表されたIMF(国際通貨基金)の世界経済見通しは、イランをめぐる地政学的リスクの高まりなどに伴う原油価格の上昇が、世界経済の大きな下押し圧力になり得るとの認識を示している。
 原油価格の変動は、ジェットコースターのように激しい。原油価格(WTI期近先物)は、2007年以降急騰し08年7月に1バーレル145.3ドルのピークをつけた後、同年12月には33.9ドルまで急落。その後は再び上昇に転じ、足下では100ドル前後で推移している。欧州危機の深刻化やその波及が懸念される中で、原油価格は今後どの方向にどれくらい動くのだろうか。

「ひょっとしたら大幅に下がる」2つの要因

 これまで原油価格に影響を及ぼす要因として指摘されてきたのは、「原油需給の変化」、金利やマネーの量など「金融情報の変化」、そして「地政学的変化」の3つであった。例えば08年前半までの急騰は、長期の金融緩和を背景に膨張したマネーが、投機なものも含めて原油市場に殺到した結果生じたものと考えられる。
 しかし金融危機以降は、原油価格と株価が同じ動きをしていることが示すように、原油は金融商品化し、景気の先行きに対する期待を強く反映するようになっている。例えば、11年以降の上昇は、世界経済回復への期待の高まりを反映している可能性が高い。それを手掛かりに先行きを展望すると、地政学的リスクの高まりを別とすれば、一部の懸念とは逆に、「原油価格は下がる、ひょっとしたら大幅に」というシナリオを描くことが可能である。

理由として第1に、世界経済が回復ペースを速めるという予測に確信が持てない。

 IMFは、世界の実質経済成長率を12年3.5%、13年4.1%と予測し、回復ペースが来年にかけて高まるとしている。しかし、足下の世界経済はあまりに不安定・不確実である。ユーロ圏経済は既にマイナス成長に陥り、厳しい財政緊縮策や不動産市場の悪化を背景に、景気後退もしくは極めて緩慢な成長が続く可能性が大きい。米国経済は緩やかに回復してきたが、足下で雇用回復テンポが鈍り、また厳しい財政緊縮が予想されるなど、回復の持続性には疑問符が付く。
 また、中国をはじめ新興国では、世界経済の減速に伴う輸出鈍化やこれまでの金融引き締めの影響から、経済成長率が低下している。各国は金融緩和などを通じて景気てこ入れを図っているが、不動産市場の停滞(中国)など構造的な問題もあり、成長率が高まるまでには相応の時間がかかるだろう。金融危機後の経済が長期にわたって停滞するという過去の経験や、各国の潜在成長率が低下しているのではないかとの懸念も踏まえると、世界経済が高い成長率を取り戻すのはまだ先のことではないか。

第2に、世界の金融市場では、リスク回避的な動きが依然として観察される。

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 米国、ドイツ、日本の国債など「安全資産」と目される資産への投資が増える一方、新興国の株価は低迷している。また、スペインやイタリアなど、財政危機・金融危機の高まりが懸念される国の国債も強い売却圧力にさらされている。さらに、FRBの量的緩和やECBの長期貸出オペによる大量の資金供給が、重債務国国債や株式への投資を下支えしていたのだとすれば、さらなる金融緩和がなければ、景気停滞感が残る中で金融市場はリスク回避的なスタンスを一段と強める可能性がある。その中で、原油は既に「リスク資産」として認識されている。
 以上のような環境下で、イランによるホルムズ海峡封鎖・イスラエルの対イラン攻撃といった事態が生じないとすれば、世界経済の回復期待の萎縮とリスク回避傾向の高まりから、原油価格は弱含み(みずほ総合研究所では13年10-12月に81ドルまで下がると見ている)、先行き期待のさらなる下方修正をきっかけに、下落が加速する可能性も否定できないと考えられる。

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