経済

日本経済の動向

世界経済を見通す重要ポイント|トランプノミクスへの「期待」

みずほ総合研究所 チーフエコノミスト 高田 創

みずほ総合研究所の経済見通しでは、2017年の世界経済は持ち直しを見込むものの、米国の動向がカギを握るとみている。
2016年6月の英国の「EU(欧州連合)離脱」(Brexit)を上回るサプライズといえる、トランプ新大統領の誕生による影響をどう考えるかが大きな課題といえよう。
今回は、今後の世界経済の見通しにあたっての注目点について解説する。

 
図1 世界の成長率とインフレ率

(注) インフレ率はCPI。予想はIMF。 (資料)IMFより、みずほ総合研究所作成
図2 主要先進国の長期金利

(注) 長期金利は各国10年国債利回り。予想はみずほ総合研究所。 (資料)Bloombergより、みずほ総合研究所作成
図3 先進国と新興国の製造業PMI

(資料)Markitより、みずほ総合研究所作成
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期待は現実を動かすか

 2016年を通じた世界経済情勢の考察ポイントは、①世界的な不確実性の高まり、②「3低(3L):低成長・低インフレ・低金利」が長期化する新たな状況である「新常態」の可能性(図1、2)、③政策対応の手詰まりである。今回のトランプ新大統領の誕生は、このような世界の閉塞感があるからこそ生じた現象ともいえる。
 今日の世界経済の実相は、「3低」の継続と認識するが、トランプ新大統領の掲げる大幅減税を中心とした経済政策(トランプノミクス)は、世界の新たな潮流となりつつある財政重視の流れを加速しやすい。また、トランプノミクスが、1980年代前半のレーガノミクスの再来ともいえる大きな経済のブームのきっかけ、ゲームチェンジャーとなる可能性も念頭に置く必要がある。あくまでも期待先行だが、当面は市場がドル高・円安により株高のリスクオンとなることも展望する必要がある。
 なお、先進国と新興国の合成製造業PMI(Purchasing Managers'Index:購買担当者指数)の推移を見ると、景況感は先進国、新興国ともに2016年後半、改善傾向にあり、特に先進国は2015年前半の水準まで回復している(図3)。また、新興国では年初来、為替相場の落ち着きから安心感が生じ、中国経済の底堅さや原油価格が底入れしたことが景況感を支えた。こうした状況下、トランプ新大統領の登場による転換期待が一層景況感を底上げする可能性がある。

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金融から財政への大きな潮流の変化も

 今後の経済見通しの難しさは、まさに「現実」の「3低」と、「期待」の「トランプノミクス」のいずれに軸足を置くかの選択にある。
 振り返れば、2016年11月の市場には、ちょうど4年前の2012年11月の日本に類似する面がある。当時、日本ではアベノミクス相場として円安・株高を期待した海外ファンド主導で大きな潮流が生じた。アベノミクス相場は、「実態を伴わない」とされながらも「期待先行」で進行した。
 同様に、2017年の世界経済を現段階で展望しても、改善要因は限定的だ。ただし、期待先行とされつつあるなか、世界的な閉塞感の下で、金融政策の限界の意識が財政への潮流を作り出すのではないかとの期待はある。こうした動きは、既に2016年5月の伊勢志摩サミットで安倍政権が打ち出したシナリオにあったが、欧州の緊縮に阻まれ、全く日の目を見なかった。米国にも、当時は財政重視に傾くモーメンタムがなかった。
 しかし、世界的にバランスシート調整の後遺症が経済の長期停滞をもたらすなか、処方箋としてトランプ氏が掲げる財政重視の政策に市場が飛びつこうとするのも無理はない。大きな潮流の変化が生じうることも想定する必要があると認識している。

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