経済

日本経済の動向

長期化する原油安|原油相場のカギを握る米国の原油生産

みずほ総合研究所 チーフエコノミスト 高田 創

2016年初、30ドルを割る水準まで大幅に下落した原油相場は、その後上昇に転じ、6月に50ドルの大台を回復する局面も見られた。
しかし、英国の離脱問題をきっかけに持ち直しの流れは一服し、一段の上昇にはつながっていない。
今回は、この原油相場の動向と見通しについて解説する。

 
図1 原油相場の見通し

(注) 在庫変動は、4四半期移動平均。点線は予測 (資料)米国エネルギー情報局(EIA)、Thomson Reutersよりみずほ総合研究所作成
図2 シェールオイルの採算コストの推移

(注) 採算コストは、シェールオイルの新規開発の動向から、みずほ総合研究所が試算。事業計画時に想定する原油の予想価格には、代理変数としてWTIの24カ月先物価格を使用 (資料)米国エネルギー情報局(EIA)、Thomson Reutersよりみずほ総合研究所作成
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低位安定が見込まれる原油相場

 6月中旬以降下落傾向にあった原油相場は、8月に入り、産油国の増産凍結観測を受け上昇した。産油国による増産凍結の試みは、今年に入ってすでに2度失敗しており、今回が3度目だ。背景には8月初めの40ドル割れがあり、再び危機感を強めた産油国が増産凍結を模索し始めたというわけだ。しかし、原油相場が今後も上昇を続ける可能性は低いと見ている。6月上旬までの反発局面では、需給バランスの改善を見込む「均衡予想」が原油相場を下支えしてきたが、8月初めの40ドル割れは、こうした「均衡予想」の信憑性がすでに揺らぎ始めていることを物語っている。「均衡予想」の前提には米国の生産調整があったが、米国の原油生産が持ち直せば、需給バランスの超過供給が再び拡大する可能性がある。
 当研究所では原油相場に関し、年初の下落をもって底入れしたと考えるものの、40ドル台での低位安定が当面続くと展望している(図1)。

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シェールオイルの
採算コスト低下が影響

 この背景には、米国のシェールオイルの動向がある。40ドル台の原油相場は、以前であれば生産コストの高いシェールオイルが採算割れする水準と考えられてきた。この水準では生産が自然減少することで、価格上昇が生じるため、40ドル台の価格は持続的な水準ではないとする見方がコンセンサスであった。
 しかし、現実にはシェールオイル製造の生産性が飛躍的に上昇し、開発コストの負担感は従来よりも大幅に軽減されている。新規開発の決定を行う際に生産業者が想定する採算コストは、2014年上期には60ドルを上回っていたが、現在は40ドル程度まで低下している(図2)。
 一部の生産業者は、40ドル台でも事業の収益性を確保できるようになったと考えられ、生産調整を促す価格水準も切り下がり、原油相場のトレンドが下方シフトした可能性がある。シェールオイルの生産調整はこれまでよりも進みにくくなっており、原油安は長期化する可能性がある。
 当研究所では昨年来、中国を中心とした新興国のバランスシート調整と原油安経済とは、表裏一体であるというストーリーラインを描いてきた。新興国のバランスシート調整が進捗しなければ、原油価格の回復は難しい。加えて先進国の側からも、米国の供給要因から原油相場の低価格状況長期化の懸念が生じている。
 2014年半ばに原油相場の下落が始まって以来2年が経過し、市場は小康状態になっている。ただし、新興国のなかでも中国の回復力が緩慢な中、低価格状況は今後も続くのではないか。

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