経済

日本経済の動向

「ソフトランディング後」に備えよ!「中国経済減速」の背景と今後の見通し

みずほ総合研究所 副理事長 杉浦哲郎

中国経済の減速が目立っている。2012年4-6月の実質GDPは、前年比7.6%という低い伸びにとどまった。
電力消費や工業生産など経済活動水準を直接示す指標の最近の動きを踏まえると、実態的な経済成長率はさらに低いとの指摘もある。いずれにせよ、中国経済がここにきて予想以上に減速していることは疑いない。
今回は、中国経済減速の背景と今後の見通しについて解説する。

投資に過度に依存した高成長の「限界」

1208_12_prescription_jp_1.jpg 中国経済減速の背景には、これまで高成長を支えてきた牽引車の減速・失速がある。政府の引き締め策を反映して、固定資産投資はかつての勢いを失っている。また輸出は、最大の輸出先である欧州経済の停滞を反映して、大きく鈍化した(図)。
 同時に、いわゆる構造問題が景気減速を増幅させている可能性がある。中国は、旺盛な公共投資プロジェクトや銀行による信用供与の拡大を通じて、投資に大きく依存した経済成長を遂げてきた。実際、GDPに占める固定資産投資の比率は約50%に達し、日本の高度成長期の33%(平均値)を大幅に上回る。しかしそれは、産業における過剰な供給力やインフラ投資への過度の傾斜、不動産価格の急騰をもたらした結果、現在は過剰供給力の顕在化といった反動が現れて、経済活動を萎縮させている。
 また、投資依存型成長の裏返しとしての消費の停滞が、景気減速の背景にあるとの指摘も多い。GDP統計によれば、4-6月期の経済成長に対する寄与度は、消費(4.5%)が投資(3.9%)を上回る(純輸出は▲0.6%)。しかし、政府が不動産市場の過熱を抑え社会保障を充実させ、金融市場の自由化を進めて収益率が高い金融商品が提供される状況を作り出していれば、過剰投資は抑制され、消費や住宅購入が安定的に増えて、景気減速に対する緩衝材の役割を果たしていた可能性は否定できない。
 つまり、足下の景気減速を引き起こした引き金が、欧州経済の停滞や政府の引き締め策だったとしても、構造問題が中国経済の脆弱性を高めており、それが景気減速を増幅させていると考えられるのである。

「厳しい冷え込み」のリスクは当面はない

 このような中国経済の減速を、われわれはどのように受け止めればよいのだろうか。
 当面の見通しとしては、中国が成長テンポをさらに低下させ、リーマンショック後のような厳しい冷え込み(2009年1-3月期の成長率は6.6%まで落ち込んだ)となる懸念は小さいとみてよい。政府はすでに投資プロジェクトの再開・推進に動いているし、中央銀行は利下げを含む金融緩和を進めている。また、財政赤字の小ささ(GDP比1.6%)やインフレ率の低下(6月前年比2.2%)を踏まえれば、政府・中央銀行の政策対応余地はなお大きい。輸出の伸びが大きく高まることは期待できないとしても、賃金の高い伸びや物価の安定が消費意欲を刺激する可能性はある。

「ソフトランディング」の可能性を織り込め

 一方、中長期的にみれば、成長トレンドはこれまでよりも抑制されたものとなる可能性が高い。投資偏重の是正・消費拡大という経済成長のリバランシングは、政府が重点的に取り組んでいる課題である。構造改革によって経済活動の自由化が進み、政策や市場メカニズムによる調整が機能すれば、行き過ぎた信用供与やそれに基づく過大な設備投資は抑制され、不動産関連部門への過度の依存も修正されるだろう。つまり、過大な投資によって押し上げられていた経済活動が是正されることで、これまでより低いが安定的な経済成長が実現する(もちろん、構造改革が進まず、歪んだ経済成長が続いて、ハードランディングとなるリスクはある)。それはわれわれにとって、グッドニュースでもあり、バッドニュースでもある。
 中国経済がソフトランディングに成功すれば、これまでのように対中取引から大きく安定した利益を期待できる。しかし一方で、中国の高成長が続くことを織り込んで先行的に投資を拡大させてきた企業にとっては、過大投資となり、過剰投資の調整と収益への悪影響を避けることはできない。われわれは、ソフトランディング後の中国を織り込む必要がある。
 

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