経済

日本経済の動向

米国QE3の可能性、高まる日銀は「さらなる金融緩和」を迫られる

みずほ総合研究所 副理事長 杉浦哲郎

米国FRB(連邦準備制度理事会)が、金融緩和をさらに進める可能性が高まっている。
エコノミストの多くは、早ければ9月12~13日の連邦公開市場委員会(FOMC)で、
国債や資産担保証券の購入再開(量的緩和第3弾、QE3)が決まると予想している。
今回は、米国QE3が実施される可能性と、日本への影響について解説する。

 米国は「QE3」に頼らざるを得ない

 米国FRBが金融緩和をさらに進め、早ければ9月のFOMCで、量的緩和第3弾(QE3)が決まるとの予想が増えている。その背景には、米国経済がいまだ停滞から抜け出せないという現実と、世界経済の予想以上の減速が景気下押しリスクを高めていることがある。
 2012年4-6月期の実質経済成長率は1.5%(前期比年率)にとどまり、失業率も8%台に高止まりしたままだ。また、大統領・議会選挙を控え、年明け以降実施される予定の財政緊縮の悪影響を回避・緩和するための協議が進んでいないことから、それに伴う景気悪化を懸念して、企業・家計は設備投資や耐久財購入を控えている。
 そこに、世界経済減速の悪影響が加わる。ユーロ圏での経済縮小や、中国経済の予想以上の減速を反映して、米国経済の牽引役であった輸出の伸びも鈍化していく可能性が高い。こうした状況下で、米国は景気対策を、さらなる金融緩和に頼らざるを得なくなっているのである。

「景気の下支え」が必要なのは日本も同じ

 それは、日本にどのような影響を及ぼすのか。確実にいえることは、日銀もさらなる金融緩和に踏み込まざるを得なくなるということである。
 4-6月期の実質成長率(前期比年率1.4%)は、エコノミストの事前予想を下回った。復興需要にも、息切れの兆しが見える。世界経済の減速・停滞や円高の持続は、輸出にとって大きな足枷となっている。そのような中で足下の景気を支えようとすれば、日本もさらなる金融緩和に期待せざるを得ないし、市場はそれをすでに織り込みつつある。具体的には、9月または10月の金融政策決定会合で長期国債等の買い入れ増額が決まる可能性がある。外債購入による円高圧力の緩和も、いずれ検討の俎上に上るだろう。さらに、政府が大規模なインフラ投資を行い、その財源を日銀の国債引き受けに求めるべしとの主張が、政治サイドから強まる可能性もある。ちなみに1930年代の米国大恐慌は、最終的にFRBの国債引き受けによる軍事関連支出拡大をもって終息したといわれている。

効果と副作用を「正しく」評価・懸念せよ

1209_16_prescription_jp_1.jpg ただ、さらなる金融緩和の効果と副作用がどのように現れてくるのかが理解されていないという点が気に掛かる。
 中央銀行資産残高/GDP比率で見れば、日銀は以前からFRBを上回る緩和政策を実施しているが、景気、物価、金融仲介、資産市場などで期待された効果は発揮されていない(図表)。
 また、不確実性の高まりに直面して企業や投資家は「引きこもり」状態に陥っている。金融緩和にもかかわらず、日本を含む主要国の企業は手元資金を積み上げるために雇用・投資を抑制し、投資家は米国・ドイツ・日本国債といった「安全資産」への投資を増やしている。さらなる金融緩和が、そのスタンスを変えるほどのインパクトを持つのだろうか。
 一方で、金融緩和が行き過ぎた場合に現れる副作用を「正しく」懸念することも必要だ。過度の金融緩和は、低金利・低収益にうんざりした投資家の投機を誘発し、不動産など一部市場の不安定さを高める可能性がある。その結果、企業や投資家はさらに保守化するかもしれない。長期金利がさらに一段と低下すれば調達・運用の利ざやは縮小し、金融仲介機能が円滑に発揮されず、資金が適切に供給されない恐れがある。また、大恐慌時の財政支出拡大・FRB国債引き受けが戦後の高インフレを誘発したように、中央銀行による財政ファイナンスはコストを伴う。それが許容範囲に収まるかどうかは不明である。
 米国でも日本でも、さらなる金融緩和が実施される蓋然性は高い。しかしその効果や副作用は明らかではなく、「他に手がないから」「市場の期待を高めてきたから」やらざるを得ないという性格が強い。経済・金融政策の効果や副作用は、ある臨界点を超えると急に大きく現れることが多い。金融緩和政策の帰結を、われわれはこれまで以上に注意深く見る可能性がある。

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