経済

日本経済の動向

争点となっている両候補者の「経済政策」 2012年米大統領選の結果は米国経済を変えるか

みずほ総合研究所 副理事長 杉浦哲郎

 米国大統領選挙(11月6日投票)まで、2カ月を切った。オバマ、ロムニー両候補の支持率は、拮抗している。
 最近の世論調査では、選挙の帰趨を握るといわれるいくつかの州を中心に、オバマ大統領の優勢が伝えられるが、その差はわずかである。
 今回は、米国大統領選で争点となっている「経済への影響」について解説する。

■ 両候補が主張する経済政策の違い

 オバマ、ロムニー両候補の経済政策は、そのコンセプトも具体的な中身も大きく異なる(図表1)。
 オバマ大統領の経済政策の主眼は、景気回復と雇用創出を優先すると共に、所得再配分の強化を通じて中間層の生活水準を押し上げることだ。そのため、インフラや研究開発への投資拡大によって景気を刺激し、高所得層向け減税を停止・縮小して中間層への所得配分を増やそうとする。背景には、停滞から抜け出すために政府にもできることがあるという考え方がある。
 ロムニー候補は、民間経済に対する政府の干渉を排除することが米国経済の活力を取り戻す鍵と考える。歳出削減による政府の規模縮小、社会保障の削減、高所得者を含む家計や企業の税負担削減を通じた「小さな政府」の実現が、米国経済の回復と雇用創出をもたらすとする。

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■ 共和党のドグマにとらわれているロムニー

 筆者は、米国経済が直面する課題を踏まえれば、オバマ大統領の政策がより実効性があり、ロムニー候補の政策は共和党の伝統的ドグマにとらわれ過ぎていると考える。
 景気・雇用の回復が遅れている背景には有効需要の不足があり、また、金融市場の不安定化や世界経済減速を受けて企業が投資・雇用を抑制し、家計が消費を控えている状況では、政府支出によって需給ギャップを埋める必要がある。また、成長トレンド(潜在成長力)が下方シフトしている懸念があり、それに対してはインフラ投資や研究開発投資、教育や職業訓練の強化が有効だろう。
 一方で、ロムニー候補が推す「小さな政府」が、眼前の課題解決に資するとは考えにくい。所得格差の拡大・中間層の所得低迷は、富裕層向け減税が経済全体に波及(トリクルダウン)するというメカニズムが働いてこなかったことを示している。また減税財源としての歳出削減が教育や研究開発に及ぶことで、潜在成長力が一段と押し下げられる懸念がある。

■ 実際は、経済への影響は大差ない?!

 しかし現実的には、どちらが大統領に選ばれるにせよ、経済に現れる影響は大して違わない可能性がある。
 第1に、大統領の政策がそのままの形で議会を通るとは考えにくい。議会では上院・下院で「ねじれ現象」が続き、上院ではどちらが多数派になっても、議事妨害を覆すのに必要な60議席を確保できない可能性が高い。だとすれば、これまでと同じく、大統領の政策は議会で承認されず、結局どのような経済政策もまともに機能しないことになる。「決められらない政治」が続くわけだ。
 第2に、どちらの政策にも、直ちに経済成長率を高め雇用を大きく増やす効果があるとは考えられない。リーマンショック後の大規模景気対策によって、景気・雇用は緩やかながら回復に転じた。しかし、欧州危機の深刻化や新興国経済の冷え込み、高まる政策の不確実性に直面して企業や家計は萎縮したままであり、政府支出の追加だけで彼らを鼓舞することができるとは思えない。
 一方で、ロムニー候補の主張に従って性急な財政赤字削減を進めれば、景気に悪影響が及ぶ。また超低金利が続く下では、1990年代前半のような赤字削減→金利低下→投資回復という経路で景気が刺激される可能性も低い。富裕層減税の効果は、中間層の負担増で相殺される。
 両者の経済政策は大きく異なる。しかし当面は、それが実際の経済に及ぼす影響はそれほど違わず、かつ小さいと見るのが妥当だろう。

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