経済

日本経済の動向

投資減少、資金逃避などの影響も日中衝突は中国にとっても大きな経済損失

みずほ総合研究所 副理事長 杉浦哲郎

尖閣諸島の領有権をめぐって、日中対立が続いている。
両国の冷静な対応を求める声は強いが、歴史認識の違いや国内問題、
対外政策など複雑な要素が絡み、ギクシャクした関係は今後もしばらく続きそうだ。
今回は、日中対立が日本経済や企業の対中ビジネス、中国経済に与える影響について解説する。

■ ビジネスへの影響が広がりつつある

 尖閣諸島の領有権をめぐる日中対立によって、日本企業が大きな悪影響を被っていることは、すでに報じられている通りである。破壊活動や日本製品忌避によって、営業停止や生産縮小を余儀なくされた日本企業は多い。中国人旅行者の訪日キャンセルも相次いでいる。  マクロ的に見ても、対中ビジネス停滞の影響は大きいと予想される。輸出に占める中国向けの比率は2割まで高まり、日本経済のけん引役となっていたし、中国での生産や販売は、企業業績を支える大きな柱となっている。製造業について見ると、2010年度に在中国現地法人が上げた経常利益(1.9兆円)は、在米現地法人のそれ(1.0兆円)を上回っている。

■ 「中国リスク」への警戒感が一段と強まる

 ただ、注意すべきは、今回の日中対立がすでに顕著になっている中国経済の減速の中で起きたということだ。中国の実質経済成長率は、尖閣問題が先鋭化し反日デモが拡大する以前の2012年4-6月期にはすでに大きく減速し、前年比7.6%というリーマン・ショック後以来の低さとなっていた。それを映じて、日本の対中輸出数量はすでに2011年秋以降減少基調にあり、2012年1-8月を通して見ると、前年比11.0%という大きなマイナスであった。そして、労働力の伸び悩みや生産性の鈍化、賃金上昇に伴う競争力の低下、過剰供給力の増大、所得格差の拡大といった構造問題が顕在化する中で、中国経済がかつての高成長を取り戻すことは難しいとの見方が増えている。

 そのような中で、日中対立が長期化する可能性が出ているわけで、それは「中国リスク」に対する日本企業の警戒感を一段と強め、すでに進みつつある中国以外での事業展開を加速させると予想される。ミャンマーへの関心が急速に高まっているのは、その表れだろう。また、大企業の中国離れが進めば、中小企業の選択肢も、中国以外への進出だけでなく国内への回帰も含めて、多様化していくものと思われる。

■ あまり認識されていない「中国への悪影響」

1211_14_prescription_jp_1.jpg

 中国自身は、両国の対立が自国経済に及ぼす影響をあまり懸念していないように見受けられる。人民日報(日本語版10月12日付)は、中国の産業や資本が日本の抜けた穴を埋めるのは容易だとの専門家の見方を紹介している。中国にとって、輸出先としては欧州や米国の方が重要であり、中国企業の競争力が高まってきたことを踏まえれば、「日本抜きの中国」を懸念する必要は小さいのかもしれない。

 しかし一方で、日本の対中依存度が高いとすれば、それと同じくらいに中国の対日依存度も高いという現実があることも事実である。日本の対中貿易額(輸出+輸入)、中国の対日貿易額(同)の、それぞれのGDPに対する比率を見ると、両者のトレンドは日本の上昇、中国の下降と異なるが、現時点での比率は、日本5.9%、中国4.7%と、大して違わない(図)。また、日本の対中輸出の約7割は機械や部品であり、それが生産活動の効率性や品質を支えている。だとすれば、日中関係の悪化が日本経済に悪影響を及ぼすのと同じように、中国経済にも少なからぬ悪影響が生じる可能性は否定できない。

 さらに中国経済が減速する中で、中国リスクへの警戒感が日本を超える広がりをみせる懸念もある。海外企業の中には、過度に高まった中国依存度を引き下げようとする動きがあるようだ。いくつかの米国企業は、中国での生産を縮小して、米国工場の生産を拡大させている。実際、2011年における中国の対内直接投資は、日本を除けば前年比3割以上も縮小していた。中国からの資金逃避も増大しているようだ。

 今回の日中対立は、両国を超えて、これまでのグローバリゼーションの枠組みを世界規模で変える契機となる可能性を秘めている。

ページトップ

最新記事

最新記事一覧へ