経済

日本経済の動向

リスクに対処し、チャンスを逃さない「中国経済減速」の影響をどう見るか

みずほ総合研究所 副理事長 杉浦哲郎

中国経済の伸び悩みがはっきりしてきた。2013年1-3月期の実質GDP成長率(前年比7.7%)は、前期(同7.9%)を下回った。
在庫調整の遅れなどを反映し、足下の景気回復も緩慢なようで、中長期的にも慎重な見方が増えている。
今回は、停滞し始めた中国経済が日本経済や企業経営に与える影響について解説する。

経営に「中国リスク」を織り込むときが来た

 実質GDP成長率の低下、緩慢な景気回復など、足下の中国経済が伸び悩んでいる。中長期的に見ても、より慎重な見方が増えているようだ。「中国の潜在成長率は5%に低下しつつある」「中国が米国を抜いて世界最大の経済大国になることはない」といった指摘もある。
 実際、中国経済の成長力が予想以上に減衰しつつある蓋然性は高く、それが日本経済や企業経営にもたらす影響の大きさを注視しなければならない段階に来ている。
 第1に、投資主導型成長が限界を迎えている。中国経済は2000年代以降、とりわけリーマンショック後の「4兆元経済対策」が実施される中で、投資への依存度を高めてきた。
 総固定資本形成のGDP比率は45%(2011年)に達し、需要面から経済成長を大きく押し上げたことが分かる。一方、供給能力も拡大し、金属、化学、自動車などの産業で深刻な設備過剰が表面化している。地方政府が主体の過大な不動産投資が行われ、一部でバブル的な状況も生まれた。経済が伸び悩む中で過剰な設備・構築物(ストック)が存在するということは、新たな投資(フロー)への抑制圧力が高まっていることを意味する。つまり、従来のような投資主導型成長は難しく、投資以外の需要が拡大しなければ、経済成長率はさらに低下する。
 第2に、金融システムの脆弱性が強まっている。上述した投資過剰経済を支えたのが、過度の信用膨張だった。銀行貸出増加額は、経済対策前(00~08年)の年平均2.3兆元から対策後(09年~12年)の同8.2兆元へ急増。それ以上に増えたのは、シャドーバンキングと呼ばれる銀行以外のルートを通じた信用供与だった。銀行や信託会社が発行する資産運用商品(理財商品)を通じた信用供与、ノンバンクの融資仲介などが拡大した。銀行貸出残高、マネーサプライのGDP比を見ると、両者のギャップが広がっているが、その多くがシャドーバンキングの拡大によるものと推測される(図参照)。
 その結果、過剰投資とそれに伴う投資収益率の低下が貸出債権を不良化させ、金融機関や投資家に損失をもたらし、金融システムや経済を不安定化、脆弱化させる。それは、サブプライム危機後の世界の金融市場、経済の混乱に類似している。
 第3に、これまでの成長を支えた豊富で安価な労働力が失われつつある。中国の労働力人口はピークを迎えるとともに、製造業などでの賃金上昇圧力が高まっている。その結果、輸出拡大を担った労働集約型産業での競争力が低下し、世界の工場としての優位性は次第に低下している。東南アジアなどより低賃金の国に生産拠点を移す中国企業が増えているのは、その表れだろう。
 第4に、生産性上昇率が再び高まるかどうか、現時点では不透明である。2000年代後半以降、金融、情報、通信、エネルギーなど主要な産業分野で国有企業の存在感が高まる一方で、民間企業の活動が停滞した。それが、技術革新や生産性上昇率の停滞を通じて、成長トレンドの低下を招いている可能性がある。金融、為替、資本移動の自由化が進み、民間企業活動が活発化しなければ、成長トレンドの回復が期待できないとの指摘は多い。中国の政府機関自身が、2010年代後半~20年代前半の潜在成長率を6%前後と低く見積もっているのは、改革の難しさを認識しているからかもしれない。
 以上の議論が正しいとすれば、今後は中国経済の大幅な減速を織り込んで経済運営や経営に臨む必要がある。対中直接・間接輸出の停滞や資源価格の下落、それに伴う内外投資需要の減退、中国の輸出ドライブ増大、在中国事業拠点の見直し、チャイナ+ワン戦略など、影響は広範に及ぶだろう。しかし一方で、中国が改革を進めることができれば、そこにチャンスが生まれることも事実だ。個人消費、とりわけサービス需要が拡大すれば、日本企業の確実できめ細かな対応を特色とするビジネスモデルが強い競争力を持つだろう。中国経済減速のインプリケーションは、複眼で見る必要がある。

ページトップ

最新記事

最新記事一覧へ