経済

日本経済の動向

「新卒一括採用」「終身雇用」は死語になる?!労働市場の変化は「経営のチャンス」

みずほ総合研究所 副理事長 杉浦哲郎

安倍政権による成長戦略の柱の一つが、人材の活用だ。
日本が未曾有の少子高齢化時代を迎えようとする中、女性や高度外国人のさらなる活用が求められているが、こうした動きは今後労働市場をどう変え、企業側にどのような対応を迫るのか。
今回は、アベノミクス実行後に起こり得る労働市場の変化と、企業に与える影響について解説する。

労働市場の多様化が、いよいよ加速する

 安倍政権の成長戦略ペーパー(「日本再興戦略-JAPAN is BACK」)は、「人材こそが日本が世界に誇る最大の資源である」にもかかわらず、そのポテンシャルが十分に発揮されてこなかったことが経済停滞の主因の一つと指摘し、女性の活用、労働移動の促進、働き方の多様化、高度外国人の活用などによって人材力を強化するという方針を打ち出した(右表)。
 その是非や実効性については、さまざまな議論がある。女性の育児休業期間が長期化すれば、企業は女性を登用し育成するコストが高過ぎると感じ、逆に雇用を抑制するかもしれない。停滞分野から成長分野への労働移動の促進や限定正社員の拡大は、雇用を不安定化させるという懸念もある。しかし、ここで重要なのは、これまで緩慢ながら進んできた労働市場の多様化が成長戦略を受けて加速することであり、企業はそれをどう成長に結び付けられるかを問われるという点にある。

企業側にとって「良い話」ばかりではない

 女性の活用については、女性の能力向上や管理職登用が進んでいる企業ほど業績が良いとの分析・指摘が少なくない。いくつかの先行研究は、日本でも米国でも、女性比率が高く女性管理職比率が上昇した企業の収益率や売上高の伸びは、そうでない企業より高いことを示している。それを可能にしているのは、当該企業の男女均等型人事管理(育児後の再雇用制度など)であるという※。つまり、女性の能力を男性と同じように生かせる環境を作ることが、企業の成長を左右するということになる。
 労働市場の流動性の高まりによって、事業の合理化・縮小やそれに伴う人員の見直しが容易になると同時に、新事業への進出・拡大にふさわしい人材を確保するための競争が始まる。企業が必要な時に必要なだけ、安いコストで労働者を確保できるようになるわけではない。
 優れた労働者は、その能力や実績を高く評価し、魅力ある機会を提供してくれる企業に向かう。企業は業務内容を明確化し、それに見合う報酬体系を構築することが求められよう。また、社員が有するスキルや知的資産(専門知識、社外人的ネットワークなど)を、正しく評価する能力も必要となる。グローバル人材の強化や高度外国人材の増加が事業のグローバル化を支える人的資源を豊かにする一方で、企業側はその能力を生かす環境を準備しなければならない。それは、職場環境(外国語での会議など)から評価基準(スキルと成果の評価)、業務の多様化・専門化など、多岐に及ぶ。

チャンスを生かせるかどうかは企業次第

 グローバル化や技術革新、それに伴う成長モデルの変化は、終身雇用慣行に変容を迫っている。また新卒一括採用は、学生生活が制約を受ける、業種・企業・職種に対する志向の偏在(大企業志向など)・溶解(内定をもらえればどこでもよくなる)といったゆがみも生じさせている。労働市場の流動化・多様化とそれを支える市場インフラの整備(転職市場の充実、職業訓練の強化など)は、こうした慣行を変える引き金となる。学生の就職観は、起業という選択肢も含め大きく変わっていくだろう。
 加えて、製造業付加価値の重心が、モノづくりそのもの(ハード)から、アイデアやデザイン、営業、サービスなど(ソフト)に移っていることが示すように、成長に必要な人材とその能力・資質は多様化している。
 労働市場の多様化は企業にとって朗報だが、それをチャンスとして生かせるかどうかは、企業の対応次第である。環境変化の中で、必要な人材を確保できているのか、彼ら・彼女らの能力を生かせる環境を用意しているのか。経営者は考える必要がある。

 

経済産業省男女共同参画研究会
 「女性の活躍と企業業績」(2003年)など

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