経済

日本経済の動向

5年で経常黒字は8分の1に縮小した日本の「双子の赤字」国化と3つの課題

みずほ総合研究所 副理事長 杉浦哲郎

経常収支の黒字が急速に縮小している。2013年の経常黒字は3年連続で縮小し、3.3兆円となった。07年(24.9兆円)と比べれば、約8分の1という小ささである。
近い将来、日本が米国と同様、財政赤字・経常赤字を抱える「双子の赤字」国となるという予想も増えてきている。
今回は、日本の経常黒字縮小が進んだ場合、出てくるであろう課題について解説する。

■急速に進む「経常黒字縮小」と将来の課題

図 国際収支の推移

 2013年の経常黒字は、3.3兆円に縮小した。黒字縮小の主因は貿易収支の赤字拡大であり(13年10.6兆円の赤字)、海外投資がもたらす収益(所得収支、同16.5兆円の黒字)によっても、黒字縮小を止めることはできなかった(図)。そう遠くない将来に経常収支が赤字に転じるとの予想も増えており、そうなれば日本は、米国と同様、財政赤字・経常赤字を抱える「双子の赤字」国となる。
 「双子の赤字」国化は、日本に3つの課題を突き付ける。
 第1は、モノづくりの革新が求められるということだ。
貿易赤字拡大の主因として、原発停止に伴う燃料輸入の増大が指摘されるが、2013年についていえば、輸入数量やドル建て価格には大きな変化はなく、輸入金額が増えているのはもっぱら円安による。大きな問題は、円安にもかかわらず輸出が増えない点にある。実際、13年の輸出数量は前年比1.5%減少し、今も伸び悩んでいる。背景として、日本企業による製造拠点の海外移転、現地企業の生産力拡大、日本製品の競争力低下という日本企業の「輸出する力」の劣化が指摘されよう。それは、電気機械において特に顕著である。輸出金額は07年の17兆円から13年の12兆円へ3割も減り、輸出から輸入を引いた収支は7.6兆円から1.7兆円へ4分の1以下になった。
 日本にとって不可欠な食料やエネルギーを輸入するための外貨を稼ぐには、製造業の輸出力を維持することが必要である。ドイツは、企業がそれぞれの得意分野で技術力を高めアフターケアを充実させることによって、グローバル市場で強固な地歩を築き、輸出を伸ばし経常黒字を増やしてきた※1。米国も、3Dプリンティングの拡大などによる生産技術の革新などを通じて、製造業の復活に力を入れている※2。日本も、「モノづくり」における日本の強みの再確認とイノベーションを加速させることが必要であろう。
 第2は、円安が日本経済に及ぼす影響を再考する必要があるということだ。
 仮に、円安による輸出拡大・経済成長が期待外れに終わるとすれば、円安は景気回復にとってマイナスとなり得る。先述のように、円安は輸入原材料価格を押し上げ、輸入企業や家計の負担増を招いている。また、円安に伴い交易条件(輸出価格/輸入価格)が悪化しているが、それはコストをかけて国内で生産したものを海外で安売りしているということであり、国内購買力の減少をもたらすことになる。円は、適正水準で安定していた方が企業経営にとっても経済成長にとっても望ましいという事実を再確認する必要がある。ちなみに、企業物価で測った購買力平価は1ドル=100円程度であり、企業経営者の多くもそれを望ましい水準と考えているようだ。
 第3に、財政規律を維持すること、日本がその意思と能力を有していると内外に認識してもらうことが一段と重要になるということだ。
 経常収支が赤字化すれば、日本は外貨借り入れや対外資産の取り崩しによって、赤字をファイナンスする必要が出てくる。それは同時に、「日本は経常黒字・対外純資産国だから財政赤字を自前でファイナンスできる(=政府債務の規模が大きくても問題ない)」という論理の前提が崩れることを意味する。そのような中で、財政赤字や政府債務の膨張を止める具体的な対応がなされなければ、財政規律の維持に対する内外投資家の疑念が生じて、長期金利の上昇を招きかねない。実際、政府の試算によれば、アベノミクスによって経済成長率が高まり、消費増税が予定通り実施されたとしても、2020年度までに国・地方のプライマリー収支黒字化は達成できない。社会保障支出の合理化や税制改革など、財政構造改革がこれまで以上に強く求められることになる。

※1 Management Flash2013/11/20号「ドイツ中堅・中小企業が強い5つの理由」
※2 同2013/6/12号「米国製造業革命と日本のモノづくりの課題」

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