経済

日本経済の動向

景気の行方は企業・個人の振る舞い次第 アベノミクス「正念場」とわれわれの課題

みずほ総合研究所 副理事長 杉浦哲郎

消費増税が目前に迫る中で、増税後の景気についてさまざまな見方が飛び交っている。
回復基盤が底堅いという報道が目立つ中、「円安や公共投資の効果は一時的」との見方も根強く、本格的な設備投資や雇用拡大、賃上げには慎重な経営者も多い。
今回は、アベノミクスが正念場を迎える今、企業・個人が取り組むべき課題について解説する。

■消費増税後の景気の「脆弱性」に留意せよ

 消費増税後の景気について、さまざまな見方が飛び交っている。政府・日銀、一部メディアは、回復基盤が底堅さを増しているとして、駆け込みの反動による一時的な落ち込みの後は景気が再び回復軌道に戻ると言う。確かに、2013年10-12月期のGDP統計は、公共投資が鈍化する中で個人消費や設備投資など民需の伸びが高まり、景気回復を支えたように見える。生産や雇用など足下の景気指標にも明るさがうかがえるし、注目の賃上げについては一部大手企業がベア実施に踏み切るようだ。
 しかし一方で、その裏側にある脆弱性にも留意する必要がある。消費や生産、雇用が増税前の駆け込みで押し上げられているのだとすれば、回復の持続力は割り引いて考えなければならない。実際、10-12月期のGDPは下方修正された。年明け後の自動車など耐久財販売の増加も、駆け込み需要がけん引している面が強い。企業がなお、設備投資や雇用の拡大、賃金の引き上げに慎重な様子もうかがえる。経営者の多くは、円安や公共投資の効果を一時的なものと理解するとともに、国内市場の持続的拡大には確信を持てないでいる。加えて、新興国経済の減速・停滞は、ただでさえ増えにくくなっている輸出をさらに下押しする可能性がある。

■企業・個人が取り組むべき2つの課題

中小企業のROAの比

 上記のような脆弱性を乗り越えて、日本経済をこれまでより高い持続成長経路にシフトさせていくと期待されてきたのが成長戦略である。今夏には成長戦略第2弾が策定され、規制緩和や税制改革を加速させると報じられている。
 しかし言うまでもなく、経済成長をけん引するのは企業や個人であって、政府ではない。言い換えれば、政府が成長戦略を策定・実施すれば経済が成長するわけではなく、経営環境の変化に即した制度や仕組みが作られた時に、経営者や個人がどのように振る舞うかが、日本経済の行方を決めることになる。
 そのような観点に立つと、企業や個人が取り組むべき課題が山積していることに気付く。
 第1に、経済成長率の趨勢的低下の主因が、生産性上昇率の低下=企業の付加価値創出力の低下であると考えるならば、企業は、技術革新やグローバリゼーションに対応できず低付加価値化してしまった製品やビジネスモデルへの固執(その象徴がコモディティ化したテレビの開発・生産を続けたこと)を断つ必要がある。その上で、人的・知的資源のストックを生かして、新たな技術革新を体現しグローバル市場で強い競争力を持つ製品・サービスやビジネスモデルへの転換を急がなければならない。米国やドイツの企業は、そのようにして高い収益力を維持し、文字通り経済成長をけん引してきた(図)※注
 第2に、日本企業は今なおリスクテイク、チャレンジ、競争を避け、「安全地帯」に引きこもっている。不確実性の高まりという理由はあるにせよ、企業の手元流動性(余剰資金)が大きく積み上がっているのはその表れだろうし、規制緩和が遅々として進まないのも、競争を忌避し既得権益を守ろうとする傾向が残っているためと考えられる。イノベーションや成長が、市場競争と企業・個人によるチャレンジから生まれることは論を待たないし、米国やドイツの経済発展はそれを象徴している(意外に思えるが、ドイツは市場競争を重視する国である)。日本の戦後復興や高度成長も、企業の厳しい競争(過当競争)があってこそ実現したものであった。だとすれば、企業や個人は、厳しい競争に対峙し新しい可能性に賭けることが、成長機会をもたらす重要な鍵になると認識すべきだろう。
 日本企業がそのような転換にチャレンジすることが、経済の成長力を高めていく。アベノミクスは正念場を迎えているが、それを乗り越える原動力と責任はわれわれ企業や個人にある。

※注
Management Flash2013/11/20号 「ドイツ中堅・中小企業が強い5つの理由」、
同2013/6/12号 「米国製造業革命と日本のモノづくりの課題」

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