経済

日本経済の動向

もはや一国経済のリスクにとどまらない ウクライナ情勢を読む~問題の本質は何か

みずほ総合研究所 チーフエコノミスト 高田 創

ウクライナ南部クリミア半島の編入を強行しようとするロシアに対し、国際圧力が高まっている。
日米欧7カ国(G7)による非難と経済制裁の強化にロシアがどのような態度に出るのか、世界中が注目するニュースとなっている。
今回は、深刻化するウクライナ情勢が、世界経済に及ぼす影響について解説する。

■ウクライナ経済は極めて深刻な状況にある

 ウクライナで政治的・経済的な混迷が続いている。クリミア半島を軍事介入によって編入しようとするロシアに対し、米国をはじめ各国は国際的な圧力を強めており、事態は深刻化している。年初には誰もが想定していなかったことだが、今やウクライナ情勢は世界で最大の不安要因となっている。こうした状況を受けて、みずほ総合研究所は、英ロンドン駐在のエコノミストの手による「危機的状況が続くウクライナ」と題するリポートを発表した※1
 リポートでも触れているが、ウクライナでは経常収支の赤字が大幅に拡大している(図)そもそもウクライナでは、実質的なドルペッグ制により固定為替レートが維持されていたため、国際収支の危機に対して脆弱である。しかも、2012年以降は親欧米政権と親ロシア政権の間で揺れるという政治不安が資本流出を加速させてきた経緯もあり、現在、ウクライナ経済は極めて深刻な状況に陥っている。IMF(国際通貨基金)による総額270億円にも上る資金支援は、不可避な状況であった。

ウクライナの経常収支推移

■ルーブル下落、資本流出が今後のリスク

 ただし、本質的な問題はウクライナ一国にとどまらない。むしろ、今後最も懸念されるのは、ロシアへの経済制裁強化などによる同国経済やグローバルな金融市場への危機波及にある。具体的には、現在のルーブル下落などが収まらず、同国からの資本流出が続いてしまう可能性が懸念される。ロシアからのネット資本流出入額の推移を見ると、2008年以降はおおむね流出超過が続いており、これに伴ってルーブルにも持続的な減価圧力がかかっている。
 今後のリスクとしては、2008年のグルジア侵攻のときのように、国内勢と海外勢が共にルーブル売却に転じる中で、大幅な通貨安が進むシナリオを考える必要がある。ロシアへの経済制裁の可能性が残る間は、同国からの資本流出の懸念はくすぶり、悪影響が懸念される。

■ロシア経済のつまずきは世界に波及する

 ウクライナ問題そのものは、その規模などから判断しても大きなマグニチュードの問題にはなり得ないだろう。問題の本質はロシアへの波及と、その経済関係を通じた欧州、さらには世界全体への影響にある。特に、経済制裁が長引く場合には、貿易関係の縮小から「win - win関係」の正反対である「lose - lose関係」として、欧州地域を中心にその他地域も含めて縮小均衡として波及する恐れがある。
 みずほ総合研究所が描く14年の基本シナリオは、新興国に不安が生じても米欧中心の改善が続く(「ネオ・デカップリング」)というものだが、新興国不安が市場全体の不安へと波及していく場合には、このメインシナリオが揺らぐことになる。今年1月に生じたアルゼンチン問題はあくまでも個別国の問題にとどまると評価することもできるが、新興国の中でも規模が大きい国、例えば中国やロシアに関しては、それに伴う波及度も影響度も大きく異なる。中国の信用バブル崩壊リスクと、今回のウクライナ情勢に端を発するロシア問題の波及は、世界経済のテール・リスクとなり得るものだ※2ウクライナ情勢は対岸の火事ではなく、深刻化した場合には企業活動にも影響しかねない問題であることを認識しつつ、状況を見守りたい。

※1
「危機的状況が続くウクライナ」みずほインサイト 2014/3/5号
※2
「中国シャドーバンキング問題は世界のテール・リスク」リサーチTODAY 2014/3/13号

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