経済

日本経済の動向

今年最大の「日本国債」リスク 日本版・金融緩和の縮小がもたらす影響

みずほ総合研究所 チーフエコノミスト 高田 創

消費税率の引き上げから1カ月を経て、日銀は「増税による景気の落ち込みは限定的」と量的・質的金融緩和の継続を発表した。
黒田東彦総裁は出口戦略について「時期尚早」と述べているが、2%の物価安定目標が見えてきた段階で、気の早い市場が「日本版テーパリング(金融緩和の縮小)」のシナリオを持ち出す可能性もある。
今回は、日本版テーパリングの可能性と影響について解説する。

■見逃せない「日本版テーパリング」の可能性

 4月初めに欧州投資家を訪問した際、関心のトップは日銀の追加緩和だった。今日の債券市場の関心も同様である。もし日銀が予想するように物価動向が年内に1%台後半の水準になり2%が視野に入れば、追加緩和ではなく「日本版テーパリング(金融緩和の縮小)」が議論されるという見方も生じ得る。筆者は、今年最大の日本国債のリスクはそうした可能性にあるとみている。
 下の図は、期待の転換が引き起こす概念を示す。これまでの金融政策に対する期待形成は、「追加の緩和が強まる」という可能性しか想定しない歪な分布になっていた。同時に、そうした期待形成を反映して投資家の債券ポートフォリオのポジショニングができていた。それが転換し、「緩和以外の可能性もあり得る」という期待が出てくることで、状況は大きく変化する。

物価への期待が変える市場の金融政策の期待

■きっかけとなる「物価上昇のペース」をみる

 日本版テーパリング論が生じるきっかけとなり得る物価上昇のペースをどうみればいいのだろうか。家計の期待インフレ率は、2012年末の1%台後半から13年末時点で3%台に高まっている。一方、企業の期待インフレ率は家計に比べ穏やかだが、家計に「良い物価上昇」期待が広がり値上げが受け入れられやすい環境が醸成されると、企業のインフレ期待も切り上がる。さらに消費増税に伴い、「便乗値上げ」の文字が復活するようになってきた。
 今年の主要企業の春期賃上げ率(連合ベース)は2.2%と1990年代後半の水準まで戻る動きを見せており、サービス価格も引き上げの兆しがある。東京大学が作成する日次物価指数を見ると、前回の消費増税時の97年と比べて今回は伸び率が高く、食料品や日用品については増税分以上の引き上げが生じている可能性もある。世の中は既に「もはやデフレではない」という意識に転じているようだ。
 日銀が目標として掲げる2年で2%達成のハードルは高いが、安定的な物価上昇に必要な人々のインフレ期待に変化が出てきたことは重要である。みずほ総合研究所では、「需給ギャップの改善期待⇒期待インフレ率の上昇⇒物価上昇」のルートを通じて基調的インフレ率は徐々に高まり、2020年には2%のインフレが実現すると予想している。問題はそのペースが実際にどの程度まで速くなるのか、今後の動向を見極めることだろう。

■金融緩和への「歪な期待」の影響

 米国のQE3が着実に出口戦略に向かう段階になっただけに、日本も時間差はあるが縮小に向かうとの観測も生じ得る。米国では、昨年5月以降のテーパリング観測で長期金利が上昇。モーゲージ金利や住宅ローン金利も大幅に上昇した。金融緩和だけに期待することは本来は歪であるが、米国ではあえて市場を歪な期待形成に誘導し、市場もそうした姿勢を信任して利回り曲線が形成された。人為的に利回り曲線を押し下げる金融抑圧が強かった分、出口戦略の影響が大きく表れた。
 日本は米国以上に、歪な期待形成を金融政策のアナウンスメント効果で行う「管理相場」の状況にある。それだけに、期待に転換が生じると米国同様に利回り曲線に大きな変動をもたらし得る。その場合、現在のように異例の低金利水準を定着させるのは困難だ。今後もあくまでも管理相場が基本だが、市場が見込むより物価が上振れした場合は、非連続的な動きが起こり得る。日銀は金利上昇を抑制すべく再び管理相場化を志向するが、新たな金利の水準にはリスクプレミアムに伴う底上げが生じやすいだろう。

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