経済

日本経済の動向

ロシア抜きのG7で話題になったこと 世界経済は「平時化」も、地政学的には「有事」

みずほ総合研究所 チーフエコノミスト 高田 創

ロシア・ソチで開かれる予定だった今回の主要国首脳会議(G8)は、ウクライナ南部クリミア半島の併合によってロシアが参加停止となり、ベルギー・ブリュッセルに場所を変更して開催された。
17年ぶりとなった「ロシア抜きでの首脳会議」で話題になったのは、ウクライナ問題を中心にした地政学的リスクだった。
今回は、G7で議論された内容を基に、現在の国際状況を読み解く。

■経済の成長エンジンが不足、日本に期待も

 6月にベルギー・ブリュッセルで開催されたG7首脳会議の中心テーマは、ウクライナ問題を中心にした世界の地政学的リスクであった。世界経済が徐々に「平時化」しつつある中、地政学的には再び「有事」に戻った状況となった。
 2007年以降6年間、主要国首脳会議は経済危機への対応に追われてきた。しかし一方で、2007年時点では米国のサブプライム・ブームはまだ継続しており、欧州ではユーロ統合ブーム、新興国では中国への投資ブームが起き、世界中が沸き上がっていた。当時と比較すると、足元の環境は危機が後退し振り出しに戻ったとはいえ、世界の成長エンジンが不在である。すなわち、米国はバランスシート調整から立ち直りつつあるが、出口戦略に不確実性を残している。欧州は危機後退とはいえ長期停滞のままであり、新興国には新たな不安が生じている。そうした中、日本については比較的安定した回復への期待が生じやすくなっている。

表 G7首脳会議での地政学的状況一覧

■現地でのサミットの扱いは意外と小さい

 右表は、今回のG7首脳会議で議論された地政学的状況を示すものだ。表に示されるように、現在はウクライナ問題をはじめ、世界各地で地政学的な問題が生じている局地戦の状況にある。なお、最後の「海洋航行および飛行」は安倍首相が昨今の中国の引き起こす問題を想定して主導したものである。
 日本のメディアは、この首脳会議を年間最大の国際行事として大きく取り上げてきた。しかし筆者が同時期に滞在していた欧州では、サミットへの注目は小さく、むしろ最も注目されていた行事は6月6日に開催された「D-デイ」の70周年記念式典であり、そこにはロシアのプーチン大統領も招待されていた。「D-デイ」とは1944年6月の第二次世界大戦の節目となった連合国のノルマンディー上陸作戦を記念したものである。ロシアは6月4~5日のサミットから排除されても、「D-デイ」の式典には招待されており、ロシアと欧米各国の首脳が集う場が用意されるというところに、今日の国際政治の複雑さがある。

■グローバル経済化での微妙なバランス

 今日のように、世界各地で地政学的不安が生じる不安定な局地戦の環境を、「1980年代以来の東西冷戦体制の再来」と不安視する見方が生じている。また、今日のロシアと中国が領土的野心を抱いていることから、ナチス・ドイツとの類似性を議論する向きもある。6月28日は第一次世界大戦のきっかけとなったサラエボ事件から100年となる象徴的な日であることから、今日の東欧状況との類似性があるとの見方も多い。 一方、今日の国際経済は、これらの地政学的問題や第二の冷戦構造の中心にあるロシア・中国も世界の市場化経済に組み込まれた新たな構造にある。それだけに世界的な緊張が高まりやすい。決定的な対立構造で自らが経済的に排除を受けることのコストをロシアも中国も意識せざるを得ない中で、微妙なバランスの上に今日の国際関係は成り立っている。

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