経済

日本経済の動向

海外投資家を強く意識した内容に 「新成長戦略」から経済トレンドを読む

みずほ総合研究所 チーフエコノミスト 高田 創

先般、「日本再興戦略改訂2014(新成長戦略)」が閣議決定された。
海外からはいつもながら辛口の見方が多いが、英『エコノミスト』誌が従来に比べてプラス評価を行うなど、昨年の成長戦略から1年をかけて課題に対処してきたこと、さらに今回は海外投資家の目を随分と意識した内容であることが功を奏しているようだ。
今回は、新成長戦略の中身を読み解く。

■ 海外投資家の関心は「法人減税」「GPIF改革」

 今回の「日本再興戦略改訂2014」は、2013年版に比べて改革の深掘りがなされたのが特徴だ。法人減税や労働時間の規制改革を打ち出したこと、13年版で積み残しとなった外国人材の活用や農業の生産性拡大などのテーマを柱に据えたことなどが注目される。
 筆者がアベノミクスに関し、海外投資家と議論する中で特に関心が高い項目が、法人実効税率の引き下げとGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)の改革であった。今回、これらの項目に対処したことに加え、コーポレートガバナンスの徹底という海外投資家受けのいい項目を前面に出してきた。さらに、海外投資家は中長期的に日本に「人口減の国として投資できない国」とのレッテルを貼っている。そこで、少子高齢化に対処すべく女性の活用や日本の人口減少への歯止めについての議論に着手したことは、海外投資家の目を意識した点といえる。

図 日本株の保有構造の推移

■意識せざるを得ない「最大の株保有主体」

 右表が示すように、今日最大の保有主体が海外投資家になった以上、アベノミクスが今回の成長戦略においても海外投資家を意識せざるを得なかったのは当然と考えられる。
 コーポレートガバナンスの徹底に関しては、単に海外からの目だけの問題ともいいにくいだろう。
戦後の銀行が主導してきた日本のリスクマネーの供給体制がバブル崩壊以降崩れ、しかも国内で持ち合いの解消も進む中、まずは海外投資家に株式の買い手となってもらわざるを得なかった。
 まず、海外主導で資産価格を引き上げるためには、金融政策も含めた「三本の矢」という政策で強いメッセージを与える必要があった。さらに、資産価格の上昇に伴う国内企業の保有資産価値の改善や、国内金融機関の実質自己資本の改善がバランスシート状況を好転させるという変化をもたらすことを狙っていた。それは、資産デフレの中、従来の「持たない経営」から「持つことも含めた経営」に企業のマインドセットの転換を促すことにつながるからだ。

■次は、国内の新たな投資を呼び込む

 海外投資家の買い越しを口火とすると、次いで国内において新たな投資家層の確保が必要になる。まずは、政府自らがGPIFの改革を通じて公的年金資金をリスク性資金にシフトさせる動きを率先した。ただし、海外資金や公的年金は、自律的な動きが国内で生じるまでの時間稼ぎだ。今日の株式市場は政府主導の「官製相場」とされることがあるが、日本がデフレ均衡の中でリスク性資産の保有主体を喪失する悪循環に陥った状況を覆すには、リスクマネーの供給には相当の人為的な力が必要になる。今日の状況はこの段階にある。
 もちろん、中長期的に日本の中で預金からリスクマネーへのシフトを起こすには、年金や投信の資産運用の産業が形成される以外に道はない。そうした潮流にあって、資産運用の産業を発展させるインフラとして、コーポレートガバナンスや日本版スチュワードシップコード(「責任ある投資家」の諸原則)といった議論が生じていると理解すべきだろう。また、新たな保有層の育成方法の一つとしてNISAなどの制度充実も重要になっている。今回の日本再興戦略には、こうした一連のプロセスが従来に比べ分かりやすく示されていることに注目したい。

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