経済

日本経済の動向

日本が意識する以上のリスクとなるか 「対ロ関係悪化」で懸念される欧州経済減速

みずほ総合研究所 チーフエコノミスト 高田 創

ウクライナをめぐる欧州とロシアの対立は、双方の「制裁強化」の側面が強まっている。
著者によると、欧州の市場参加者はわれわれが日本で意識する以上に、ウクライナ問題に関する地政学的なリスクを重く受け止めているように見えるという。
今回は、対ロ関係悪化で欧州経済が受ける影響について解説する。

■ 「制裁合戦」がエスカレートする恐れも

 EUによる経済制裁に対し、ロシアが報復措置として食品などの輸入禁止を打ち出したことで、今後の欧州経済への悪影響が懸念されている。これに関連して、みずほ総合研究所は「対ロ関係悪化による欧州への影響」と題するリポートを発表している。※注
 ウクライナをめぐる欧州とロシアの対立が続く中、これまでEUはロシアへの制裁について、資産凍結や渡航禁止などの比較的穏やかな措置にとどめてきた。しかし、ウクライナ東部における停戦合意が守られないことなどから、EUは制裁の強化に踏み出した。さらに、7月17日の民間航空機撃墜を受け、EUは制裁を強化した。こうしたEU・米国による制裁の強化はロシアの強い反発を招いており、8月7日にロシアは欧米などからの一部食品などの輸入禁止を打ち出している。双方の制裁合戦はさらにエスカレートする恐れがあり、地政学的な不安は日本で意識される以上に高まりつつある。

■ リスクは輸出減少より「マインド悪化」


図 ロシア向け禁輸対象製品輸出のGDP比率

 右表に示されるように、EUの経済制裁とロシアの輸入禁止措置の対象になるロシア向け輸出額は、EU全体ではGDP比0.05%にとどまる。制裁に伴う輸出減少だけを考えれば、欧州の景気失速につながるほどではない。ただし、マインド悪化を通じた景気下振れのリスクには留意が必要だ。
 制裁・輸入禁止措置によって生じる経済への影響は、先に示した輸出減少だけにとどまらないだろう。先行き不透明感の高まりが企業の設備投資・雇用計画の見直しにつながる可能性がある。ロシアとの対立に収拾の見通しが立たないばかりか、さらなる制裁強化につながるとの不安がくすぶるからだ。企業マインドが急に冷え込めば、バランスシート調整を引きずる欧州経済にさらなる逆風が加わる。

■ 欧州の「先行きに対する不安」は意外と重い

 気掛かりなのは、経済制裁が打ち出される7月以前から、企業に設備投資の手控えムードがあることだ。ドイツの設備投資の先行指標である国内コア資本財受注(大型輸送機器を除くベース)の推移を見ると、同受注額は、5月、6月に2カ月連続で減少し、昨年12月以来の水準まで落ち込んでいる。
 最近、欧州の市場参加者と意見交換を行うと、われわれが日本で意識する以上に彼らはウクライナ問題に関する地政学的なリスクを重く受け止めているように見える。それだけに、欧州における先行きのマインド低下を認識する必要がある。8月になってドイツの10年国債の利回りは1%を割り、史上最低金利を記録した。こうした背景には、先行きに対する不安があると考えられる。日本でも2000年代に10年金利が1%を割ったときは、オーバーシュートとされたが、思いのほか長い期間1%割れの水準が続いた。欧州では、量的緩和観測が高まる中で金利低下余地がまだ残ると展望される。


※注 中村正嗣 「対ロ関係悪化による欧州への影響」 (みずほ総合研究所 『みずほインサイト』 2014年8月13日)

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