経済

日本経済の動向

3兆円規模の対策を独自に提言 「アベノミクスの死角」に対応せよ

みずほ総合研究所 チーフエコノミスト 高田 創

第2次安倍政権が発足してから2年が経過した。アベノミクスの経済政策によって円安・株高を実現した一方、その効果は輸出型大企業に集中し、中小企業や地方への波及が遅れている。
そんな中、衆議院解散・総選挙を迎えることとなり、アベノミクスは成果を問われている。
今回は、「アベノミクスの死角」に対する当社の提言と、想定される経済対策について解説する。

■ アベノミクスの恩恵は大企業に集中

 2012年11月14日の党首会談で総選挙が決まり、アベノミクスの潮流が生じてから2年が経過した。この間に株価が約2倍になり、為替が1.5倍のドル高(円安)になるという大転換が起きた。企業収益も大きく改善させたが、その効果は海外活動の大きい大企業に集中しやすい。一方、中小企業や地方へはアベノミクスの波及が遅れ、資産効果の及びにくい低所得者にも恩恵がいきわたりにくく、その結果、若年層である現役世代の景況感が思わしくないなどの状況にある。こうした状況は「アベノミクスの死角」ともいえるものだ。
 みずほ総合研究所が11月18日に発表した「内外経済見通し」では、この「アベノミクスの死角」に対処しようと、低所得者対策、地方対策としてのトラベルポイント、育児・家事バウチャーなどによる現役世代へのサポートの3項目を3兆円規模で実施すべしとした。

■「低所得者」「地方」「現役世代」をサポートせよ

 第1の低所得者対策は、現行の「臨時福祉給付金」「子育て世帯臨時福祉給付金」の対象者への追加支援であり、景気の腰折れ懸念に迅速に対応するものである。
 第2のトラベルポイントは、国内宿泊旅行者に次回の平日国内宿泊旅行に使用可能なポイント(1人1回10,000当たり円)を公費負担で付与するものである。これは「ローカル・アベノミクス」の一環として、ポイント付与というインセンティブにより、地方への旅行促進を狙ったものだ。国内宿泊旅行は地域対策として波及効果が大きい。こうした国内旅行の促進により、地方各地では自治体、事業者、住民が協力し、従来のイベント頼み、ピークシーズン頼みを脱却して通年型の「地域資源」を発掘することが期待される。
 第3の現役世代サポートには、育児・家事支援バウチャーや贈与税減税の対象拡大が含まれる。ここでのバウチャー(使用期間あり)は子育て世代向けに発行され、女性の活躍や家事・育児支援ビジネスなどのサービス提供者の育成や、提供サービスの質の向上、さらには新たな育児・家事支援ビジネスの拡大に伴う雇用創出を同時に狙うものである。

■ 4兆円の経済対策を具体的に想定

表 みずほ総研の経済対策の想定

 当社の見通しでは、真水ベースで4兆円(名目GDP比0.8%)の経済対策の策定を想定した(右表)。現在のマスコミ報道では、経済対策の規模が真水で2兆円程度との観測が強いが、2014年7~9月期が2四半期連続のマイナス成長率だったこと、また、その状況を受けた衆院解散が旗印になっているがために、対策に積み増しが生じやすいと考えたからである。
 今日、バブル崩壊後のバランスシート調整に伴う悲観に、高齢化社会の不安が加わって内需が減退している中、いかに経済の活性化を目指すかが大きな課題になっている。ここにきて総選挙を迎え、安倍首相は新たに「選挙の時計」の時間を延長するオプションを行使することになった。これにより、従来の成長戦略が中断され空白が生まれることが問題視されている。一方、新たな時間を確保することで、もっと長期的な視点に立った成長戦略も可能となるとの期待が海外では生じている。アベノミクスが新たな局面を迎える中、その進化と成長戦略への本気度が問われている。

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